過去と今の君 ページ8
明日は最終日なので焼肉をするらしい。大量に置かれた食材が存在感を主張している。
中身を冷蔵庫に入れる物かそうではないかを簡単に見て淡々と作業をする。
(はー、水飲みにくるんじゃなかった)
頼んだ奴を沈める妄想をしながら淡々と一人で作業を行う。ノロイーゼになりそう。あの野郎、ちょっと頼まれてくれない?って沈めるぞボゲェ。
誰か、誰か来てくれ…!このワンパターンの作業から解き放ってくれ…!
「何してんですか?」
「……梟谷の副主将さん?」
逃さない。一人より二人、二人より三人、この作業から早く逃れる為には君が必要だ。絶対に、逃さない。
「あはは、ちょっと頼まれちゃって…」
「この量を⁉」
「あはは、本当に大変で…」
(言って!『手伝いましょうか?』と言ってくれ!頼む!)
出来る限りの疲れた感を出し、目を合わせる。言ってくれなくとも恨みはしない、が、いや…何を考えている。期待しないと決めただろう。
「手伝いましょうか?」
「え、ええ!あ、ありがとう」
言ってくれた。自分を戒めていたので、必要以上に驚いてしまった。
副主将さんは私の隣に移動すると私を見ながら作業をし始めた。
「桜咲Aさん、でしたよね」
「うん。そうだけど…えーと、ごめん。名前…」
「東京に住んでた事ありますか?」
無視かい。人の話を聞かないのは主将と同じなのか?切実にやめてほしい。じっと横顔を見つめる。
(…何処かで見たことがあるような?)
「あの?」
「あ、ごめん。あるよ。中学までは東京にいた」
「そうですか。では、花宮奏多の従兄弟だったりしますか?」
「うん。そーだけど…何で君が…」
急に始まる質問責め。何なんだ君は。
パチリ、目が合った。やっぱり何処かで見たような…
「赤葦京治って知ってますか?」
『どしたんですか?その痣』
「あ」
閉じ込めたはずの記憶がこじ開けられた気がした。
「あ、かあし、くん」
「覚えてくれてたんですね」
震える、勝手に身体が。あの日が、誰にも知られたくない、
「大丈夫ですか」
「…大丈夫だから」
触らないでと続く言葉は飲み込んだ。ダメだ、ただの八つ当たりになってしまう、から。
「ごめんなさい」
「何の謝罪?」
「…誰にだって踏み込まれたくない所くらいあるでしょ」
そっと手を握られた。とても優しく包み込むような握り方だった。
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きなこもち - コメントありがとうございます!嬉しいです。 (2020年11月30日 21時) (レス) id: 95f5385eac (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - とても面白いです!一気に読んでしまいました…!陰ながら応援しています(*゚∀゚*) (2020年11月30日 19時) (レス) id: 47378f0ea6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなこもち | 作成日時:2020年8月23日 14時