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「ごめんなさい、気をつけます」
「ホンマに。……俺の前からAが居なくなること、それが一番怖いねん」
「……帰れないじゃないですか、私」
「お前がホンマに帰る言うんなら、俺はそん時は笑って見送るで」
「……私は泣いてるかもしれないですね」
そんな話をしていると、エーミールが来た。
「ゾムさん。グルッペンさんが呼んでます」
「ちっ、ええとこやったのにな〜?まぁええわ。お大事にー」
ゾムは窓から飛び出して行った。なぜ扉から出て行かないのか、疑問である。先程までゾムが居た場所に座ったエーミールは、優しい目を彼女に向ける。
「ゾムさんと何を話していたんですか?」
「私が帰る日が来たら、の話ですよ。ゾムさんは私が居なくなる事が怖いのだそうです」
「帰って欲しくない。それがきっとこの軍にいる人間の総意です。でもそれを言ってしまえば、貴方の重荷になる。だから言わないようにしてたんですけど、言ってしまいましたか」
「……別れを告げる時間があればいいんですけどね。ある日突然目覚めたら元の世界、なんてそんな帰り方私は嫌です」
「そうですね。Aさん。私は貴方を生徒だと思って接しているから、あまり欲 情せずにいられる。でも、私が辛抱ならなかったその時は、殺してもいいですよ」
「なぜ」
「我欲に耐える力がなかった私のせいで、貴方が傷付くのは嫌です」
「……玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする。そんな歌が我が国にはあります」
「暗号ですか?」
知的好奇心の高いエーミールは食いつく。どうやら、殺すだとかそんな重い話からは話題が逸れたようだ。
「この歌は、恋心に耐え忍ぶ力が弱まるくらいなら、いっそ死んでしまえ。そんなことを歌っています。この歌の作者は、結婚を制限された身分でした。しかし、歌の師匠の身内に恋をしてしまうのです。だから、このまま生きていたら、恋心が堪えきれない。ならば死んでしまえ。と。先程のエーミールさんの発言から、この歌を思い出してしまいました」
「……遠回しな表現をしますね。これも文化ですか?」
「昔の文化ですね。短歌など、限られた字数の中で自分の思いを表現する。昔の人は、この歌の上手さなどがモテる基準であった、とも言われています」
「なるほど。凄く深みのある文化ですね。貴方がこの世界に居た証として、ぜひとも広めましょう。タンカ。貴方が帰った後も、残り続けるように」
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かす(プロフ) - かこつです。楽しませていただきました。ありがとうございます (7月17日 19時) (レス) @page48 id: b1482de086 (このIDを非表示/違反報告)
らあゆ(プロフ) - ありがとう……ありがとう……ほんまにありがとう…一気読み最高でした( ;∀;)夢主可愛すぎるだろ…ありがとう(*´;ェ;`*) (2023年3月21日 8時) (レス) @page47 id: 61afbf51de (このIDを非表示/違反報告)
♪si?do☆(プロフ) - とっても面白かったです!また面白い作品書いてください! (2023年1月6日 16時) (レス) id: 89c26ef77d (このIDを非表示/違反報告)
ヒル(プロフ) - 新しい番外編...?好き。夢主の平和ボケっぽいのがずっと抜けない感じ好き。もう、語彙力喪失。ありがとうございますほんとに番外編感謝します...! (2022年12月21日 23時) (レス) @page43 id: e3196d1b3b (このIDを非表示/違反報告)
小雪 - 完結おめでとうございます!番外編が好きすぎる…。いつも更新されるたびにわくわくして読ませていただいておりました。本当に素敵な作品をありがとうございました! (2022年12月16日 0時) (レス) @page41 id: 472937dc0d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひよこの子 | 作者ホームページ:
作成日時:2022年11月23日 16時