初日の堕落は何にも勝る【tn】(ひよこの子) ページ1
夏休み初日というのは、全てもやる気が削がれるものだ。だからこうして、土手に寝転がってただ青空を眺めるのも仕方ない。
流れる川の澄んだ音と、蝉の鳴き声、たまに上を走る車や自転車の音。これら全てが夏を感じさせて心落ち着く。
「なぁにセンチメンタルな気になってんねん」
「うびゃ」
突如した知り合いの声と気を現実に引き戻すような冷たい感覚が背中に走る。振り返ると、幼馴染のトントンがラムネを持って立っていた。
「あれ、アンタ部活は？」
「今日は休み。土手で涼もうと思ったら、お前が居ったから。ついでにラムネ買うてきてん」
「気が利くねぇ、豚の癖に」
「おう、要らんのか」
「いやん、要ります。トントン様ぁ」
瓶ラムネというのがまたセンスがいい。彼からラムネを受け取って2人で土手に転がる。
「あちぃ」
「それな。ここド田舎だしさ。アイス買うのも一苦労だよね」
「アイス……!!買いに行こうや」
「……話聞いてた？」
「おう」
彼は一気にラムネを飲み干すと、そのまま土手を駆け上がった。近くに止めてあった赤色の彼の自転車の籠に空の瓶を置くと、自転車の後ろを叩いてこちらを見る。
「乗れよ、A」
「っふははっ！どんだけアイス食べたいんだよ。まぁ、お付き合いしますよ」
彼の自転車の後ろに飛び乗って、出発する。向かい風が生暖かくてそれもまた夏だなぁ、と目を瞑る。
「きゃー！桃瀬先輩!!!」
「桃瀬先輩！？どこ！？」
「やっぱA先輩と付き合ってるんだよ〜！ラブラブじゃん！」
バスケ部のキャプテン、高身長イケメン、気遣いができる優男、頭が良い。となればモテるのはもはや必然で。
そんなトントンの幼馴染ポジというのは、結構嫌がらせもあったりいじられて大変だけど、その分とても優越感を味わえる。
自惚れているだけだったら恥ずかしいが、きっと私達は両思いなのだろう。ただ、付き合うまでのこの両思いだと分かっていて遊ぶこの期間こそ1番楽しいと知っているから、しばらくはこのままでいいかな、なんて。
「A〜下り坂やで。捕まってろよ！」
「よっしゃ来た」
しっかりとトントンにしがみついて、猛スピードで坂を下る。海が近いこの街。この坂を下れば綺麗な景色が広がっている。
「踏切が降りる前に通るぞ！」
「行けー！頑張れトントン！バスケ部キャプテンでしょ！」
「漕いでへん奴がうるさいねん……」
下った勢いでそのまま踏切を横断する。
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作者名：ひよこの子
x他8人 | 作者ホームページ：
作成日時：2022年8月6日 18時
