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Aはゾムの涙に狼狽えた。もしかしたら、初めてかもしれない。彼がここまで泣くことは。普段、1番隊隊長として、弱みを見せずに振舞っている彼からは想像もつかない姿。それが、Aの意見をへし折った。
「参ったよ。じゃあ、勝って帰って来てね」
「ああ。……でもお前は、まだ何か考えとるんやろ?」
「うん。1週間も休んだら暇だし。救護班の医者とナース達に徹底的に私の知識を叩き込む。早くて丁寧な手術を」
「どこまでもお人好しや」
疲れたのだろう。そのままゾムはAの横に倒れ込んで寝てしまった。
「ゾムもね」
Aに体重をかけないように、横にズレたのだろう。ゾムは寝ていてもAを求めた。逞しい腕を腰に回して引き寄せ、もう片方の手をAの頭の下に持って行く。所謂腕枕だ。
「好き」
Aはソっと自分の枕をゾムの頭の下に入れて、自分はゾムの腕に頭を乗せる。心地が良い。そして安心する。
翌朝、Aが起きるとゾムが自室の簡易キッチンに立っていた。
「んぇ…?おはよう、ゾム。何してるの?」
「食堂、男がいっぱいで怖いやろ?せやから、俺がAに朝飯作ってんの」
ニィっと笑ったゾムは、机の上に2人分の朝食を置く。とても手の凝った朝食では無い。それでも、Aにとってはとても嬉しかった。急いで椅子に座ったAは、真正面に座ったゾムに礼を言う。
「ありがとう、ゾム。最高の彼氏だよ」
「Aは、最高の彼女やな」
「んっふふ、いただきます」
たこさんウィンナーをつまんだAは、小さく謝ってから口に入れる。
「ん〜っ!美味しい!」
(可愛すぎやろ、マジで)
自分の作ったものをそんなに美味しそうに食べてくれるなんて。それはそれは幸せそうに。生きてて良かった、という顔をするものだから、ゾムもホワホワとした顔で笑っている。
「ご馳走様でした」
「お粗末さま」
「食器は私が洗うよ」
「え、じゃあ2人で洗おうや」
ゾムの提案により、シンクの前に2人で立ったはいいが、とても狭い。Aは小柄だが、この簡易キッチンは元々1人用だ。軍人で鍛えられているゾムが1人立つだけでも狭いのに、そこにAが入れば身動きなんか取れない。
「折角、夫婦みたいなことできる思ったんに」
「っふふ、また今度考えよう?はい、ゾム退いて。私が洗うから」
「怪我人は休んでろ」
「できるし!これくらい」
「ええから」
ゾムもAも、この平和が長続きすればいいのに、と思うのだった。
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けんまおし1016(プロフ) - もうこの作品もまじで最高でした!!!!他の作品もみるのはもちろんお気に入り登録もしときました!もう最高でした!!もう言葉にならないです!!!!! (2022年12月11日 9時) (レス) @page50 id: 92260459e9 (このIDを非表示/違反報告)
一条なつき(プロフ) - めちゃくちゃ良かったですひたすら鼻水ズルズル涙ドバドバで読ませて頂きました!! (2022年10月7日 2時) (レス) @page45 id: 10435debae (このIDを非表示/違反報告)
黒輝 雷音⚡ - 途中emさんが舌打ちしながらカーテン閉めるのでめっちゃ爆笑しちゃいました!(笑)めっちゃ面白い作品でした! (2022年9月26日 2時) (レス) @page45 id: a7e2765b25 (このIDを非表示/違反報告)
這い寄る脅威(プロフ) - ピくんーーーーー!!!www (2022年8月29日 0時) (レス) @page49 id: 0893c6b06a (このIDを非表示/違反報告)
コム@スランプなう(プロフ) - 夢主可愛い…zmさんッ!僕にもその子貸しt)))←おまわりさーんこいつでーす 番外編ちょくちょくかいてくれるの嬉しいです😊 (2022年8月28日 13時) (レス) @page49 id: 0ee0aa5caa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひよこの子 | 作者ホームページ:
作成日時:2022年8月1日 20時