【テニスの王子様】花言葉とパレット【幸村精市】 (ページ36)

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32:儚い紫苑色と淑やか洋琴① ページ36

涼しくなってきた風が、頬を撫でる。
昼休みの屋上で、そっと耳を澄ませば、可憐なピアノの音色が聴こえてくる。
朝練の時、仁王先輩にそう言われて、屋上のいつものベンチで、瞳を閉じて、耳を澄ましていた。柔らかな風に乗って、微かにピアノの音色がする。

｢何をしているんだい？｣

水やりを終えた幸村先輩に話しかけられる。
ピアノの音色を聴いてるんです。と答えると、幸村先輩は、なるほどね。と隣に座った。幸村先輩も、瞳を閉じてピアノの音色を聴いている。
どこかで聞いたような曲。
思い出そうとしていると、横で幸村先輩が、フフッ、と笑う。

｢この曲は、ブラームスのハンガリー舞曲第5番だね｣

そうだ、それだ！と納得しつつ、オーケストラで演奏する曲を、ピアノだけで演奏する人も、微かに聞こえてくるだけのピアノの音で曲を判断出来る幸村先輩も、すごいと思った。
ありのままに、少し聞こえてくるピアノの音だけで分かるの凄いですね！と、気持ちを伝える。
幸村先輩は、少し照れたように微笑み、ありがとう。と言った。

｢クラシックと言うか、ブラームスの曲が好きなんだ。きっと、毎日聴いてるおかげだね。｣

そう言って、再び幸村先輩は瞳を閉じた。
どこか儚げで、綺麗な横顔を、思わず見つめていた。

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部活開始の時間より早く着いてしまった私は、早めに倉庫から、ボールを出していた。
最後のカゴを置き、一息ついて時計を見る。
まだ時間はある。どうしようかと悩んでいる時、

｢あの……｣

柔らかく優しい綺麗な声がした。
まるで、幸村先輩の様な。けれど、幸村先輩ではない。声のした方を向くと、肩の辺りまで伸びた藍色の髪。透明感のある白い肌と少しだけ猫目な瞳。雰囲気そのものが、幸村先輩と、とても似ていた。きっと2年生だろう。

｢テニス部に、切原赤也…っている…よね？｣

私が1年生であることに気づいたのか、敬語が無くなる。

『はい。多分、今は部室で着替えてる頃かと…』

そう言うと、そっか……と先輩は呟く。
どうしようか考えているようだった。
考える先輩のその手元には、“切原赤也”と書いてあるノートがあった。

『あの…渡しものなら、渡しておきましょうか？』

そう聞くと、即答で、いいの？ありがとう。と答える先輩。

｢じゃあ、切原に幸村紫音からって言っておいてくれる？ありがとうね。｣

返事をする前に、紫音先輩は校舎の方へ駆けていく。
幸村……やっぱ兄妹…？
そう思いながら、部室に向かった。