【テニスの王子様】花言葉とパレット【幸村精市】 (ページ31)

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27:赤い悪魔と詐欺師② ページ31

毎日、部活が終わる10分前は1試合行う。
何となくだけど、試合を見るのは好き。
流れとかは分からないんだけどね。
今日は2年生同士で試合するらしい。1人は切原先輩。
相手の先輩が気の毒だなぁ……
そっとベンチに座ると、試合が始まる。
ボールを打つ音が静かになったコートに響く。

勢いのあるボールの行方を見つめて、柳先輩のありがたい解説を聞きながら、試合の流れを頭に入れていく。
わかりやすいんだけど……たま～に雑学とか入ってきてややこしくなるんだよね……
本人に言うつもりはないけれど。
人は不思議なもので、どんな奇想天外な試合でも、１週間もあれば慣れてしまう。
正直、レギュラーメンバーのテニスは見慣れたかな。見慣れてはいけないはずなのに……。

気づけば切原先輩が、1ゲーム取ったらしい。
審判が｢チェンジコート！｣と言う声が聞こえた。
良かった……まだ“あれ”は出てない……
正直トラウマで、思い出すだけで怖いという感情が湧き上がるのが分かる。

どうかこのまま穏便に……！

＿＿＿ワカメ野郎。

そんな淡い期待も、この一言ですぐに砕けた。
切原先輩ではない。むしろ、そんな訳ない。
相手がムカついて言っただけだ。聞こえてないと思って。墓穴を掘ったな。

｢は？｣

怒りのこもった切原先輩の声がした。
またあの惨劇を見なければ行けないのか……
そう思うと憂鬱で、目を塞ぐように両手で顔を覆った。
チラリと横にいる三強を見ると、
柳先輩は、頭を抱えるようにため息。
真田先輩は、む…。と苦い顔。
幸村先輩は、困り笑顔。……少し怖い。
後輩に悩まされてるなぁ……なんて同情を抱いていると、切原先輩の悪魔のような笑い声が響き、思わずビクッと肩が跳ねる。
恐る恐るコートの方を見れば、男子にしては白めの肌が血のように赤く染まり、目も真っ赤に充血。クセのある黒髪は白色へと、豹変した切原先輩がいた。
切原先輩のこの姿は、1度しか見た事ない。
むしろ、1度しか見た事ないから、慣れなくて怖い。
悪魔(デビル)化だ。
その名の通り悪魔にしか見えないその姿が、一瞬でトラウマになった。
ブンちゃんが言うには、酷い時にはコート自体が赤く染まるらしい。
生憎、ホラーが苦手な私は、そんなのを生で見るのは真っ平御免だ。
試合の流れを頭に入れるのなんて、関係なしに、
私は試合が終わるまで固く目を瞑りながら思う。

切原先輩も苦手だなぁ………