【テニスの王子様】花言葉とパレット【幸村精市】 (ページ17)

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15:放課後。気まぐれで。③ ページ17

正直、さっさと帰った方がよかったんじゃないかって思い始めてる。
幸村先輩と一緒に帰ってるのはいいんだけど…
会話がひとつもない…
前はこんなに静かだったっけ…
もっと自然に話せてた気がする。
ふと、手元を見ると、スケッチブックを持っているのを思い出す。
そう言えば、夕焼けのスケッチを見せようと…

『…あの！』

勇気を出して声をかける。
自然と足が止まっていた。

｢どうしたんだい？｣

少し先まで歩いていた幸村先輩は、立ち止まって振り返る。
緊張で息が詰まる。深く息を吸って吐き出す勢いで言葉を伝える。

『絵を見てほしいです…！』

言い終わった後で顔が熱くなる。
幸村先輩はフフッ、と笑うともちろん。と答えた。

駅のベンチに座り、幸村先輩にスケッチブックを渡す。
絵を見ている先輩の横顔を見つめる。
真剣な眼差しのようで、優しい笑顔を浮かべていた。

｢この夕日、もしかして今日の夕焼けかい？｣

こちらを向いた先輩と目が合って、思わず絵の方へ目をそらす。

『はい。よく分かりましたね。雑なのに…』

2時間の間夢中で描いていたとはいえ、誤魔化そうとした線がたくさんある。私の目に焼き付いた今日の夕焼けとは程遠い。
空は淡いオレンジと少し暗い空色のグラデーション。いつもの青い海は、真ん中だけ少しオレンジ色に染まっていて、夕日の光に当たって輝いていた。
いつもの夕焼けと同じようで、いつもより特別に綺麗だった。

｢今日の夕焼けは普段より格別に綺麗だったからね。｣

幸村先輩は目を伏せて話し出す。
周りはいつも通り騒がしいけど、幸村先輩の透き通るような声は自然と耳に入ってくる。

｢とても印象的だったよ。目に焼き付いた。それに…｣

幸村先輩は、そっと目を開けてこちらを見る。
また目が合って、ドキッとする。
だけどさっきみたいに目をそらせなかった。
まるで、その視線に捉えられたように。

｢雑なんて言葉は合わないくらい綺麗な絵だからね。｣

そう言って幸村先輩は、ニコッと笑う。
既視感のある言葉に思わず唖然とする。
少しいたずらっぽい先輩の笑顔を見てハッとする。
私が昨日、幸村先輩の絵を見て言った…！
しかもかっこよくアレンジされた…！

｢ほら、もうすぐ電車が来る時間だよ。｣

そう言って、立ち上がる先輩。

『ちょっ…待ってください！』

私も続いて立ち上がる。
さっきの昨日私が言った言葉じゃないですか！
なんて文句を言いながら並んでホームへ急ぐ。
さっきより自然に話しながら。