【テニスの王子様】花言葉とパレット【幸村精市】 (ページ13)

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11:放課後。テニスコートにて。④ ページ13

｢茜。｣と、低く落ち着いた声がした。
声のした方へ振り向こうとすると私の手を握る心ちゃんの手の力が強くなり、横を見ると心ちゃんは硬直している。それを見て、糸目で長身の彼が、柳先輩であることを確信した。

｢あ！蓮二！｣

飼い主が帰ってきた時の子犬のように茜先輩は、柳先輩に駆け寄る。どことなく耳と尻尾が見える気がする。幼なじみと言うのが納得出来るくらい仲良さそうに話している。
それを見ているとフッと心ちゃんの手の力が抜ける。心ちゃんを見るとどこか悲しそうに笑っていた。

｢今日さ、女子バレー部は柳先輩ファンが多いって言ったじゃん？｣

その言葉に私は頷く。
心ちゃんの笑顔は失恋した少女のような表情で、フランスの印象派の絵画にありそうな儚い笑顔だった。

｢部員はね、茜先輩がいるから柳先輩のこと諦めてる人が多いんだよね。｣

そりゃこんなハッキリ見たら諦めるよなぁ…とつぶやく心ちゃん。これは“失恋”と言っても過言ではないなと思いつつ、不謹慎にも絵に描きとめておきたい儚さだった。
茜先輩と柳先輩は、はたから見たら付き合ってると言われても信じるぐらいだった。

『…今度甘い物食べ行かない？』

これが最適かは分からないけど、私のできる限りでの慰め方だと思う。

｢A…｣

心ちゃんは少し泣きそうなくらいに目を潤ませて、私を見つめる。

『何？』

｢…すき｣

『は？え？どしたの？！』

突然言われた言葉に戸惑っていると、心ちゃんは普段通り笑って冗談だよ。と言う。
冗談でも言わないでよ…と心ちゃんに言おうとした時

｢Aさん｣

と、名前を呼ばれて振り返る。もちろん予想通り幸村先輩がいた。
先輩！と思わず声が出る。それと同時にまた心ちゃんの手に力が入る。正直痛い。
軽い会話を交わした後に気になったことを聞いてみる。

『そう言えば、どうして先輩は私を部活に呼んだんですか？』

と聞くと幸村先輩は少し考える素振りをして

｢まだ部活に入ってないって聞いたから、候補にでも出来たらなぁ。って思って。｣

そう言ってフフッと笑うと、立海テニス部はマネージャー募集中だよ。と冗談ぽく付け加えた。
所々お茶目な所があってかわいいなぁ。
なんて思うと少し口元が緩む。
考えときます。と言うと、幸村先輩は心底嬉しそうに微笑む。そして茜先輩から柳先輩を引き離すと下校時間遅れるよ！と声をかけてから、校舎に戻っていった。

｢…本当に仲良かったんだ…｣

『まだ信じてなかったの？！』