人それぞれ【d!】 (ページ9)

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お夜食【tn】ページ9

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午前三時、草木も眠る丑三つ時。目が覚めたらそんな時間で、思わず少し身震いした。隣に寝ているはずのトントンはいなくて、きっとまだ編集に勤しんでいるのだと思う。真面目な男だ。少し寂しい、と思った途端にお腹がくう、と控えめに音を立てた。躊躇うことなくベッドから出て、トントンがいるはずの編集部屋の扉をゆっくりと開ける。薄暗い部屋の真ん中でぼんやりと照らされたトントンは、大きく伸びをしていた。作業が一区切り着いたのだろうか。

「とんと〜ん･････」
「ゆり？お前まだ起きとったんか？」
「ううん、起きちゃったの」

小さな声で呼びかけると、くるりと振り返った彼の隈が刻まれた瞳が私を捉えた。少し訝しげな顔をしていて、私が深夜に起きているのを心配しているのだと思う。

「俺やっと作業終わったからもう寝よな？」
「ううん、まだ寝たくない」
「･････なんで？」
「お腹すいたから、らーめん食べよう」

私が寝たくない、と言った時の彼はそれはもう困った顔をしていた。しかし、理由を話した途端に口元を緩ませて、絆されたようにやわく笑うのだ。私はその顔が大好きである。

「しょうがない奴やなあ」

口ではいつもみたいに私にお小言を言っているが、お湯を沸かしている彼の背中はとても楽しそうだった。トントンは真面目だが、こういう時は甘い。キッチンの戸棚を開けてインスタントラーメンを吟味しているトントンの隣に並ぶ。

「どれがええ？」
「ん〜と･････これ、醤油」
「じゃあ、俺味噌のやつ」

インスタントラーメンを二つ手に取って同時に作っていくトントン。かやくを入れて、スープを入れて。お湯を入れて蓋を抑えたトントンは、冷蔵庫を開けて何やら漁り出した。きっと締めの白米でも解凍しようとしているのだと思う。

「トントン、体悪いよ」
「好きなんよ」

罰が悪そうにこちらに向かって笑った彼。トントンは体に悪い食べ方が好きらしい。ちょっと分かるから、よく付き合っている。冷凍したお米なら下から二段目にまた作っといたよ、というとさんきゅ、と言ってトントンがまた笑った。いつも真面目で頼りがいがある彼と一緒にあそべる時間。

たまにはお夜食も悪くない。

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