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「……だから、さ。何にも、要らないの」
Aは、そんな風に言って、困り顔で、弱く笑った。
眉を下げた笑みは血に沈んで居て、腕に力が無意識に籠る。
＿＿悲しみも、気遣いも。
何も要らない。
只、受容れて、送ってくれれば。
只、それで。
＿＿その願いが余程残酷だと、Aは知らないのだろう。
或は知っていても、そうとしか言う事が出来なかったのかも知れない。
『残される』気持ちを、痛い程知っているAだから。
「A」
只、名を呼んだ。
苦痛を軽くすることもできなければ、死を防ぐことは尚できない。
悲しみがAを寧ろ傷付けるなら、ひとらんらんは感情を棄てる気でさえいる。
それでも如何し様も無い無力感が、自責の念を駆り立てるのだけれど。
「……御免、な。全部、貰ったのに。何も、返せなくて。……」
「逆、逆だよ」
Aに、漸くひとらんらんは、真面に言葉を返し、
逆だ。
貰ったのは、自分の方だ。
誰かを強く慕う気持ちを。
高潔に生きる美しい生き様を。
誰かに心を向ける喜びを。
……漸く、故郷の事に眼を向けられた。
きっと、Aでなければ、駄目だった。一生、眼を背けて生きていたかもしれない。
乗り越えた気でいて、全てを脳の奥底に封印して。
人が、こんなに奇麗に息ができると知った。
空を、部下を、恩人を。そうやって全ての人に等しく愛と尊敬でもって、寛容に、穏やかに接す。
世闇を知って居ながらも信念の生えた心は清らかで。
理不尽を理解し、その中にも、信念を確かに喪わぬ彼女の、すくと背筋の伸びた生き方が出来る人間が、此の世界に何人いるだろう。
本当の意味で、誰かに寄り添うと言う事を知った。
Aという人間を尊敬し、恋慕の情を抱いたから。
認めたくもない下劣な感情だと、心の何処かでは軽蔑して居たこの情を、そんな情を抱いてしまった自分を、受容れたのもAで。
その相手がAで、本当に良かった。と、本気で思う。
でも、欲を言うなら。
＿＿その続きを、と、叶いもしない願いを。
「……俺が、貰った。何も、返せなかったのは、俺の方」
「……ばーか」
Aは、恐ろしく子供っぽい云い方で、笑った。
少し、切なそうだった。
『残す側』の感情を、漸く奥歯で噛んで居るのだろう。
Aは困ったように、笑う。
＿＿ひら、と、白が舞った。
ちら、ちら、灰の空から、妖精のように。
＿＿さらさら、雪が降り始めた。
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遥彼方 - 七瀬さん» 感想有難うございます。返信遅くなり申し訳ありません。貴方様の様な丁寧にお読み下さる読者様がいらっしゃるので、此処を未だ覘いてしまうんですよ(笑)。此方こそ本作に出会い楽しんで下さり有難うございました。霊圧消えがちですが宜しければ見守って下さい(笑)。 (2022年9月2日 3時) (
レス) id: db6f42df22 (このIDを非表示/違反報告)
七瀬 - （矢印があっちゃこっちゃしてますすみません）遥彼方様は度々「二桁にいかないように」と仰っていましたが、一度思いっきり書いてみて欲しいです笑 この作品で初めて貴方様の事を知ったので、これから作品巡回しようと思います！最後に。完結有難うございました。 (2022年8月3日 20時) (レス) id: 53c0dcf46a (このIDを非表示/違反報告)
七瀬 - ↓日本語の良さと言いますか、それを存分に引き出す表現方法や言葉選びには只々感服するばかりです…更にストーリー展開や登場人物のキャラ立ちも本当に素晴らしいです…！htrnnのカッコ良さに惚れました。登場人物の方の口調が凄く好みです、やばい。↑ (2022年8月3日 20時) (レス) id: 53c0dcf46a (このIDを非表示/違反報告)
七瀬 - 完結後二年も経った作品にコメントを残してしまうのは自分でもどうかと思いますが、貴方様の作品に深く感銘を受けた故、お許し下さい。遥彼方様の書かれる文章に一目ぼれしました。↓ (2022年8月3日 19時) (レス) @page48 id: 53c0dcf46a (このIDを非表示/違反報告)
774号（現在稼働中）(プロフ) - 遥彼方さん» おぅあ…コメント返信ありがとうございますっ!774です!このお話は永久に心の中に置いておきたい、まさに名作だと思います!遥彼方様、どうかお元気で! (2022年4月18日 16時) (レス) @page41 id: e50bf9dc91 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：遥彼方 | 作成日時：2020年3月8日 0時
