３９０ ページ26
「駄目、無理に喋らないで」
ひとらんらんの声は、自分で聴いても情けないほど切羽詰まっていた。
多分今は、誰かに見せられたような表情ではないだろう。
それを見せるのが、よりによって好いた女の前なのだ。
「……意味、無いんだよ」
「辞めろッ！！」
反射的に、ひとらんらんは叫んだ。
絶叫は、悲鳴にさえ近く、響きは懇願にすら似ていた。
その言葉の意味位、解る。
お喋りを辞めて口を噤んだ処で、精々数分、息が伸びる位。
間に合わない事は、本人だって解って居るのだ。
彼女の震えた声は、恐怖ではない。
恐怖を感じているのは、ひとらんらんの方だ。
助かる、と、信じたいのだ。
如何か良かった、と手を握って涙を流して喜ぶ瞬間が、如何か来てくれと。
＿＿何処までも、遠い願いに縋って。
口端から血の塊を零しながら、然しAは、薄笑みを浮かべるのだ。
ひとらんらんの声にも、動揺は見られない。凪いでいる。
余りにも、普段通りの笑み。強いて言えば、恐ろしく顔色の白くなり始めて、弱々しいと言う位か。
流石、と言えば、そうなのだろう。
Aは決して、誰にも見せない。只一人、誰にも見られない処で苦しんでいる。いつも通りだ、そんな事は。
それは、身体も、精神も。
そして、最期の最期、生の灯を消す一瞬まで。
「助かる、助けるから」
「……いーんだって」
Aは、ひとらんらんの懇願に、ふわりと笑った。
喉の奥に血が溜まり始めているのか、掠れ声は息を多分に含んでいる。
ひとらんらんの言葉が、何処までも現実性のない事は、彼自身解って居たが、それよりも感情が先に立って居た。
助かって欲しい。
自分の大事な人なのだ、そう心底から思う事は、ひとらんらんにとって何処までも自然で、呼吸よりも当然の事だった。
……そう言う意味で、一等冷静なのは、当事者のAだ。
自らの死が差し迫ったこの状況下、Aは、死を旧友の様に迎えようとしている。
「……何て顔」
Aは可笑しがるように、ひとらんらんの頬を撫でてやった。
冷えた指先が、頬をなぞり上げ、目元の辺りに触れた辺りで、下に落ちる。
単に、疲弊の為。
でもきっと、そればかりではない。
「……フローラと、ショッピを、宜しく。出来れば、部屋のモノ、全部、棄てて。『
言葉が、出てこない。
流れる様に紡がれる言葉に返す言葉の正解が欲しかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 87人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
遥彼方 - 七瀬さん» 感想有難うございます。返信遅くなり申し訳ありません。貴方様の様な丁寧にお読み下さる読者様がいらっしゃるので、此処を未だ覘いてしまうんですよ(笑)。此方こそ本作に出会い楽しんで下さり有難うございました。霊圧消えがちですが宜しければ見守って下さい(笑)。 (2022年9月2日 3時) (
レス) id: db6f42df22 (このIDを非表示/違反報告)
七瀬 - （矢印があっちゃこっちゃしてますすみません）遥彼方様は度々「二桁にいかないように」と仰っていましたが、一度思いっきり書いてみて欲しいです笑 この作品で初めて貴方様の事を知ったので、これから作品巡回しようと思います！最後に。完結有難うございました。 (2022年8月3日 20時) (レス) id: 53c0dcf46a (このIDを非表示/違反報告)
七瀬 - ↓日本語の良さと言いますか、それを存分に引き出す表現方法や言葉選びには只々感服するばかりです…更にストーリー展開や登場人物のキャラ立ちも本当に素晴らしいです…！htrnnのカッコ良さに惚れました。登場人物の方の口調が凄く好みです、やばい。↑ (2022年8月3日 20時) (レス) id: 53c0dcf46a (このIDを非表示/違反報告)
七瀬 - 完結後二年も経った作品にコメントを残してしまうのは自分でもどうかと思いますが、貴方様の作品に深く感銘を受けた故、お許し下さい。遥彼方様の書かれる文章に一目ぼれしました。↓ (2022年8月3日 19時) (レス) @page48 id: 53c0dcf46a (このIDを非表示/違反報告)
774号（現在稼働中）(プロフ) - 遥彼方さん» おぅあ…コメント返信ありがとうございますっ!774です!このお話は永久に心の中に置いておきたい、まさに名作だと思います!遥彼方様、どうかお元気で! (2022年4月18日 16時) (レス) @page41 id: e50bf9dc91 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：遥彼方 | 作成日時：2020年3月8日 0時
