[wrwrd]白に包まる７ (ページ48)

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Aは着替えてからベッドの端に座って、髪を慣れた手つきで編んでいた。

そして、荷物から小さな注射器を取り出し、之また慣れた手つきで、針を腕の肌の下に潜らせ、器内の液体を押し込んでいた。

ひとらんらんはそれを、上着を手にしながら横目に見ていた。

少し、辛かった。
現実に引き戻される、気分になる。

Aが生きているのもひとらんらんが生きているのも、紛れもないこの現実だと言うのに。

簡素に朝の支度を終えてしまっても、未だ、太陽は目を醒まさない。

大窓を覆うカーテンの半分だけを開けて、備え付けのセットでお茶を淹れて、ベッドの端に座って、一息、つく。

まったりとした時間が、部屋に流れる。
早起きの特権、と言うではないけれど。

未だ太陽は眠気に、夜闇の毛布を被って、駄々を捏ねている様である。

さして会話も無く、只隣で、温かなマグカップを手に、茶を喉に流す。
何となく、清らかな時間でさえあった。

「……ひとらん。ちょっと、外出よう」

カップの中身を飲み干して、Aは、ふとそんな事を言いだした。
未だ温かみのあるマグカップから暖を取る様に、両手で包み込んで。

「バルコニー？」

「うん」

Aは頷き、壁にかかった時計をちらりと見遣る。そして、半分カーテンを開けた窓の外を確認した。

今更のように、秒針は鳴っている。

Aはひとらんらんのの手からマグカップを回収して、二人分のマグカップを片付けた。
そして、昨夜と同じように、バルコニーに出る。

部屋も少しは寒いが、外程では無かった。
バルコニーに出れば、足先と指先とから冷え始める。

風がひんやりと、二人分の体を巻いた。

「＿＿＿あ」

息を呑む。

空が、白み始めている。

街に朝が、来始めている。
街並みの屋根の一つ一つに、ゆったりと光が滑って行く。

Aは笑う。
「奇麗だろう？」と言いたげに。

声は、音楽のように話を紡ぎ出す。

＿＿完全に陽の昇るまでの、三十分。

空は朱鷺色に金糸の刺繍をしたようで、紫の雲が薄く棚引いて居た。
その朝焼ける空全体を、太陽が白ませている。

明けの明星がキン、と光っていた。

そんな中で、彼等はどうしても、そして如何し様も無く自由だった。
朝日はまだ起きたばかりで、太陽よりも早起きをした彼等の事も、況して内緒話にも気付かない。

その三十分間、世界は、全てが彼等のものだった。
そんな錯覚を、起こしそうな程に。

凛と鮮やかな、朝が下りる。