[wrwrd]白に包まる７ (ページ22)

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「だから、周りから自分が『空賊』って呼ばれてるの知って、案外気に入ってたみたい」

Aは明るい声に戻って、笑った。
「良いじゃねェか、『空賊』」と豪放に哂う『彼』を、矢張りAは鮮烈に覚えている。

やっている行動が、一般からの略奪などの非道では先ずなくとも。
強きを崇めぬその生き方を、『彼』は『賊』としたのかも知れない。

Aは何と無く、そんな気がしている。

「私、拾われた時は物も余り喋れなくて、文字だとか以ての外だったんだ。其処等は良く知らないけど、感情表現とかもそんなになかったらしくて」

Aはやや恥ずかしそうにしながら、言った。

普段のAからは、そんな昔の姿は想像だにできない。

静穏と無邪気、繊細と豪宕を併せ持つAは、噺も巧ければ、流れるような文字は育ちの高貴を思うような程だ。

感情表現も正の方向なら特に豊かで、苦労も柵(しがらみ)もなさそうな印象を一見受けがちでさえある。

「だから、今の私があるのは、本当にクロと、皆(・)システィナさんとかヴィルさんとか、ネビュラス(諸島)の人、他……色んな人の御蔭」

『皆』＿＿と言うのは、ひとらんらんの聴いた、『彼』の周囲の人なのだろう。
例えば、彼を慕った人々。付き従った者達。

Aは凪いだ、穏やかな声をしていた。
心底からそう思って居るのだ、と言う事は、その眼を見れば解る。

「＿＿何年位、一緒に居たんだろうね」

Aの声は、ふと静かになった。

笑みは消え、穏やかながら無表情になる。
ふと伏せ気味になった瞳に、睫の影がかかる。夜が来たように。

「ネビュラス(諸島)に、『国』ってのが出来てから、少しは経ってたかな」

一つ一つの島を『領地』の扱いとして之からも領主に治めさせる半面、中央に政府を作り、中央政府の役人を派遣する。

イメージは、連合に近い。
そういう国家になった。

「もうその時には、空賊としても随分大きくなってた」

空賊を容認する国家と言うのも無いが、存在に言及は無し。非容認ではあるが、実質的には容認であった。

寧ろ国の方が、裏でこっそり便宜を図った。『彼』の『空賊』としての活動は寧ろ、島々にとって有益であったし、何より『彼』は今までこの島の守護者であり、導き手であったからである。

「……でも、少しずつ、仲間を減らして行った」

「仲間を……？」

ひとらんらんが、意味の理解できず鸚鵡返しに言うと、うん、とAは無感情に頷いた。