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(……普通逆では？)
何て事無く、至極当たり前のように言うAの表情は、当然いつも通りの物。
然しひとらんらんからすれば、如何考えてもその台詞はAの言う台詞ではない。
「……否、俺は良いよ。先Aが入れば？」
ひとらんらんがやんわりと言うと、Aは首を傾けつつ「え、何で？」と一言。
殆ど本気で、訊いて居るらしい。
何でもへったくれも無い。
と、言いたくなるのを、ひとらんらんは健気にも抑えている。
「だって、移動とか色々したのはAの方だし、如何考えても疲れてるのは其方じゃん」
「え、でもそれで言うんならひとらん、ヴィルさんの手伝い、……」
「良いから。俺は別に力仕事は慣れてるし」
ひとらんらんは被せて言う。
抑も、殆ど手伝いなどしていない。
言えた事では無いが。
ひとらんらんの言葉は、殆ど無理に絞り出したものである。強ちそれ自体は理由の一つであり間違っていないので、『無理に』と言うには語弊があるが。
にしても、Aの方も矢張り首を傾げる。
仕草に何処か純粋ささえあるのは、Aがヴィルとひとらんらんとの会話を知らぬためである。
「別に私もそれで言ったら、……」
Aは其処まで唇を尖らせて言ってから止まる。
そして、「……否、うん」と、視線を横にずらしながら、
「じゃ、御言葉に甘えようかな」
本当は、移動など慣れている、と、言いたかったのだろうが、辞めにしたらしい。
この手の云い合いは、埒が明かないと相場が決まっている。
Aもそれの片鱗を察知したらしい、自分が折れる事でこの場を収める事にしたようだ。
「なるべく早めに上がるから」
と、Aはシャワールームの方へひらりと歩いて行く。
やや早歩きな所を視るに、本当になるべく早めにする心算の様だ。
ひとらんらんに先にシャワーを勧めただけあって、人を待たせるのを余り良しとは思えないらしい。
「や、普通にゆっくりして」
と、Aの背中にひとらんらんは声を投げたが、Aはひとらんらんを振り返るでもなく手をひらひらさせるだけ、その儘シャワールームに入って行ってしまった。
聞こえてはいるが、聴く気はないらしかった。
その姿勢は人として好ましい姿ではある。
が、流石に汚れと疲れとを洗い流すのがシャワー、少しは人の話を聞いて欲しいものだ、とひとらんらんは切なさを感じないではない。
(……ま、Aらしいっちゃらしいか)
ふ、とひとらんらんは微笑んだ。
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作者名：遥彼方 | 作成日時：2020年1月29日 1時
