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Aの内奥を、ひとらんらんは解らない。
単純に、知らない感覚の中に幼い気を取り戻しただけの事なのだと言われればそれまでだし、事実ひとらんらんも、先程一瞬頭を過ったその考えが、現実でなければ良いと願ってもいる。
だが、ひとらんらんは思い付きのその考えを、「杞憂だ」と跳ね除けられずにいる。
ひとらんらんの思考をそんな所にまで行かせる理由は、如何考えても先日の一件だろう。
だが、そんな事は解らないし、それを訊く術をひとらんらんは持合せてはいない。
ひとらんらんの仲間には、そう言う事をそれとなく聞けるような器用な人間はいるし、それに思い当たるのにひとらんらんも苦労はしない。
だがそれは少なくとも、ひとらんらんではない。
(……ッあー、クソ、……)
反る程上を見上げると、桜がはらはら散っている。
舞い降りては落ちている。
花弁の中に一つ、紛れ込んだ蝶が、勿体ぶる程風の中に踊っている。
空の濃い水色が、毒気を抜く程ストレートだ。
視線をAに戻す。
無垢な笑顔で、幼く笑っている。見上げた景色に、若草の柔らかさに、小花の香りに、擽られたように微笑んでいる。
(……人の気も知らないで)
ひとらんらんは急に莫迦らしくなって、Aがそうした様に、Aの隣に寝転んだ。
視点が更に低くなり、頬に掛る草の葉は、春の御蔭で柔らかい。
何だか妙に、懐かしく思った。
其処に、言葉らしい言葉は無かった。
必要がなかったから、話さなかった。
喋りたがらなかった。
それは責められるべき事ではないし、互いにそれを許容する人間だったから。
その静寂には、風が吹いて花弁と葉が揺れる音だけがそっと流れている。
絶えず降りかかる桜の花弁を除ける事も無く、微睡むような時を呼吸していた。
.
.
「有難う、本当に楽しかった」
Aを、往きと同じように馬に乗せ、城塞に戻った。
その笑顔は普段通りに穏やかだったが、その言葉の中には真摯なまでの色が含まれて居り、疑う余地など欠片も無い。
「良いよ、俺が無理に誘ったし」
結果、Aが楽しめたのなら、それで良いのだが。
理由如何に関係なく、誘った側は客人を持て成すのが礼儀である。今回はひとらんらん自身がAを持て成したのかと言われれば、ひとらんらんの方は首を捻ってしまうのだが。
「『無理』でも無かったし、結局私は受けたからね」
Aはやや自嘲的な響きの言葉を、その方向へ堕ちさせまいと支えた。
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遥彼方 - 。負け犬団長さん» コメント有難うございます！その辺りは本当に書いていて楽しかったので、そう言って頂けて感涙です。是非ゆっくりと楽しんでらして下さい〜 (2020年3月2日 1時) (
レス) id: b1e6400f22 (このIDを非表示/違反報告)
。負け犬団長(プロフ) - 主ちゃんの怒ったシーンの描写が普段穏やかな主ちゃんとのギャップ？で読んでいてとでもドキドキしました！それと主ちゃんの怒りがひと段落したところでの主ちゃんの空への思いが文章からあふれていてとてもきれいです！ (2020年3月1日 22時) (レス) id: 10fa209271 (このIDを非表示/違反報告)
遥彼方 - 瑠奈さん» コメント有難うございます！前作では大変お世話になりました。勿体無い程のご評価に舞い踊る程の喜びを感じております。此方こそ有難うございます！先は長いですが、楽しんで頂ければ幸いです。 (2019年12月7日 16時) (レス) id: b1e6400f22 (このIDを非表示/違反報告)
瑠奈 - 蒼から来ました〜前作も感動し、今作の面白さ、読みやすさに感激している今日この頃です。ありがとうございます (2019年12月7日 14時) (レス) id: 8b40ad9508 (このIDを非表示/違反報告)
遥彼方 - 桜舞姫・蝶月姫さん» 有難うございます！続編移行に注力します……少し（？）お待ちくださいませ……！ (2019年12月7日 1時) (レス) id: b1e6400f22 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：遥彼方 | 作成日時：2019年11月13日 0時
