[wrwrd]白に包まる

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通された部屋は一層薬品の匂いが濃厚になって、こんな場所で茶を飲んでも香りなんて解ら無さそうだ、とひとらんらんは思った。


部屋は無機質に清潔な白を基調として、正に研究室と言った風体である。


「ええと、僕は一応医務免許を持ってるんだよね。で、医者ってのは、患者の情報に対して守秘義務がある、ッて言うのは知ってるかな？」


「嗚呼、……」


何と無くは耳に挟んで居たし納得できるものだったので、ひとらんらんは曖昧に頷いた。


「でも、僕は『医師』ではない。ので、厳密に(・・・)言えば守秘義務もない。違反もないって事だ。情報の開示自体はまあ、可能(・・)だね」


「……！」


その云い方は随分と法を掻い潜るのに慣れた云い方だった。狐面の奥の眼は妙に鋭利で、曖昧な云い方をしたくられ先生の言葉の裏側の象徴の様でもあった。


「だからさ、情報の開示は僕の判断次第と言う事になる」


其処まで言ってから言葉を切って、なみなみと注いだブラックの珈琲をマグカップ二つ分、小さな机の上に置く。


「それを踏まえた上で、ひとらんらん君、君に訊きたい事があるんだけど」


ひとらんらんは無意識の内に、眼の辺りに力を込めていた。眉を顰めた訳では無く、単純に目の所に力が籠っていた。


先程話した事は、くられ先生がひとらんらんの知りたい情報の全てを持って居ると言う事であり、その情報の手掛かりにもなり得るものであり、ひとらんらんへの牽制(・・)だった。




「此の情報を聴いた処で、君は如何するの？」




ざらついた沈黙。

くられ先生は催促するでもなく只、ひとらんらんの解答を待って居る。
ひとらんらんは、その質問に対して困惑交じりに考える。


(……如何、何て)


決まっている。余程の事であれば、周りに相談せざるを得ない。今までの黙秘を平謝りして、その上で今回の件について話を聞いてもらうしかない。


……では、そうでなければ。
簡単だ、誤解が解けて、「御免な」、それで終わりだ。



＿＿では、そうでなければ(・・・・・・・)？

具体的に言えば、誰かに他言するような事のできる程の内容ではなく、もっと重苦しい程に重大で、ひとらんらんの背には重すぎる程の事であれば？


……駄目だ、言わなければいけない事だ。とひとらんらんは思った。
憂いになる様な事は消さねばならない。仲間として。国を守る立場として。


だがその『仲間』の中に、Aが含まれぬと言う事はあるのだろうか。

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