ひとめぼれ

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「やっぱめちゃくちゃ可愛い」


「隣の子、見ない顔。新人俳優かな？」


重岡さんには、
道行く人の噂話なんか、耳に入ってこおへんらしい。


俺は慣れへん人の視線が気になってしゃあないのに。


「ごめんな？
気になるよな？
外野に色々言われて」


「いえ、重岡さん、人気の俳優さんやから、仕方ないです」


「嬉し！神山くんに褒めてもろた」


「別に事実を言うただけです」


「またまた、照れ屋さん」


「もう、そんなんちゃいます」


答えた時。

通りの向こう、
ファッションビルの一階、

新しく出来たらしいクレープ屋さんが、
目に飛び込んできた。


「あっ！クレープ屋さん！
重岡さんの脚本のイメージまんま！」


「ほんまや。
虹色カラフルで可愛いな。
食べよか？」


「ええんですか？」


「デザート食べ損ねたもんな？」


「実はそれだけは残念やってん！」


「知ってた」


夜のせいか、列は出来てなくて。


「いっぱい種類あるなあ。
神山くん、どれがええ？」


「大いに悩んでます」


「何と何で？」


「いちごパフェとチョコバナナ。
いっつも結局、鉄板のチョコバナナにしてまうねん。
他のも食べてみたいけど・・・」


「そんなら、俺がいちごしたるわ」


重岡さんの笑顔は中毒になる。


肩頬だけに窪みの出来る、この笑顔、

ファンの人に、

『だいきゃんスマイル』

言われてるねんて。


会われへん間、

重岡さんのこと、
つい、ネットで調べてもうて、


こそこそしとる自分に、嫌けがさした。


遠い存在なんやって、改めて感じて、
寂しいなって、何もええことなかった。



重岡さんが、また、お金さっさと払てまうから。


「クレープは僕が奢ります」


ちょっとムキになって言うてもうた。


「ほな、ご馳走なろかな。
次は俺が奢るからさ、
今からちょっと付き合うてくれへん？」


まだそばにいたくて。

言い訳が欲しい。


「分かりました」


素直ちゃう、自分を呪いたい。

怖いねん、踏み出す勇気がない。


重岡さんの渦に飲み込まれたら最後。

自分が自分でなくなってまいそうや。


この人のこと、
好きになったり、絶対にせえへん。

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