ひとめぼれ

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「えっ、どういうこと？
彼、ネクストブレイクの俳優さんじゃないの？」


不意に、後ろからスタッフの女の子たちの声が聞こえて来た。


どういう意味やろ・・・


「小瀧くん、大倉社長と別れたんだって」


「えっ、ほんとに？
じゃあ、もう無理だね。
大手事務所の後ろ盾ないんじゃ」


望くんが、大倉社長と別れた・・・


「これ、内緒だからね！」


「分かってるって。
まず、小瀧くんがゲイってことがトップシークレットでしょ」


二人の声が遠ざかってくけど、
耳鳴りがしてる。


流星、自分の手首のブレスを、外してる。


肌身離さずつけとって。


俺が、


「お守り？」


聞いたら、


「宝物」


そんな答えが返ってきてん。


その時の流星、
切ないけど、優しい表情しとって、

ああ、大事な人との想い出の物なんやって。


胸が痛かった。


流星が望くんの手を取って、
外したばっかりのブレスを付けてあげてる。


宝物は、
望くんの手首でキラキラと輝き出した。


きっと、本来の持ち主のところへ帰ったんや。


泣いたらあかん、そう思うのに。

喉が焼けるように痛い。


俺は流星の特別にはなられへんこと。


知ってたつもりでも、

心のどっかでは、期待してた。


仕事のこと考えたら、
望くんが大倉社長と別れることはないと思ってたし、

そばにおれば、

いつかは、
俺の方、見てくれるかもしらんって・・・


望くんがこっちに向かって歩いて来たけど、
隠れる余裕もなかった。

会釈して、望くんに背を向ける。


闇雲に駆け出したけど、
どこへ逃げたらええん。

どこにも逃げ場所なんかない。


失恋って、こんな辛いねや。


初めて知ることばかり。


苦しくて、張り裂けそうで。


いっそのこと、
自分ごと壊れたらええのにって思う。


突き当たりのメイクルームの中に入った途端、
床に崩れ落ちた。


涙が後から後から溢れてくる。


嗚咽、廊下に漏れてまうかもしらん。


あかん、泣き止め、自分に言い聞かせて拳を握り締めた時。


ふわっと、日向の香りが俺を包み込んだ。


え・・・？


涙でぼやけた目には、
うっすらと首筋と襟足の黒髪が映ってる。


重岡さん・・・

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