ひとめぼれ

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逃げるように、その場を抜け出してしもた。









料亭の中庭で夜風に当たる。


コートも持たずに飛び出して来たせいで、
すぐに、身体は冷えてしもた。


関係者の偉いさん達に無理に飲まされて。

酔うてて、足元、ふらついてる。


飲む機会増えても、
お酒、全然、強くなれへん。


重岡さん、主演やし、
みんなに囲まれとって、

俺のことなんか、目にも入ってなさそうやった。


少しは気にかけてくれたらええのに。


こんなん、言いがかりよな。


まるで俺の方が意識してるみたいや。



泣きたい時は、いつも重岡さんが現れて、


気取らへん優しさと、
屈託ない笑顔で包み込んでくれた。


俺、いつの間にか、
その甘さに、すっかり浸り切ってしもてたんや。


今日で最後にしようって決めてたくせに。


フラフラしながら、
地面に崩れかけた時。


「大丈夫か？」


誰かに肩を抱かれた。


タバコとアルコール、
それに混ざる、なんとも言えん不快な匂い。


肩にあるゴツゴツした手には、結婚指輪。


スポンサーのお偉いさんの、三村さんや。


この人、圧が強いから、苦手。


「神山くん、こんなとこいたんだね。
探したよ」


「すいません。
ちょっと酔うてもうて」


主に、あんたのせいでな。


その言葉は胸の中に押し込んでおく。


「お酒弱いんだね。可愛いなあ」


髪の毛、触られそうんなって、
反射的に、身体引いて逃げる。


けど、相手も怯まへんねん。


「こんなとこいたら風邪引いちゃうよ。
酔っちゃったんなら、別室で休もうか」


「いえ、大丈夫です」


「そんなこと言わずに。
神山くんの好きなスイーツ持って来させるから」


結婚はカモフラージュで、ほんまは同性愛者。

この業界はそんなヤツで溢れてる。


ガラスの向こうに重岡さんの姿が見えた。


俺を探してくれとってんや。


目が合うた途端、あって顔して、走って来る。


「ねぇ、行こっか」


三村に肩を抱かれて、
耳にヤニ臭い息吹きかけられた。


嫌悪感で吐きそうんなってさ。


思いっきし、肘で脇腹どついたった。


「なっ、何すんの、可愛い顔して」


顔面蒼白の三村の手首にじりあげる。


「俺、普通に男っすよ？」

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