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序章『乾く夏』 ページ4

その夏は暑かった。
そして、乾いていた。
皐月、水無月、文月、葉月……4か月もの間、一滴の雨も降らずじまいで。
春に村の人が植えた畑は干上がった。
白く固まった土にひびが入り、稲は育たず黄色い枯れ草が所々生えている。……そんな田畑の様子に集落の人々は嘆き悲しんでいる。
そう、私の住まう洞窟に食事を運びにきていた翁……村長が話していた。

「……それで、だな。こちらには「花嫁様」に食事を運ぶのも厳しいんじゃよ」

「そのようですね」

私は翁の用意した膳に目を向けた。
黒塗りのお椀が一つだけ。
なかには、一握りの粟だけが入った薄い粥。

「草の一つも生えない様子。……日照りが続くのは、大鵬様のご機嫌が悪いから」

そうなのでしょう? と小首を傾げた。

「……花嫁様には酷なことかもしれんのじゃが」

「かまいません」

「かまわぬか?」

すまなそうに話す翁。
私は、生まれた時からこの辺りの天候を操るすべを持つ、神である大鵬様の花嫁になるべく、人から離され育てられた。
私の相手をしてくれるのは、目の前の老人くらい。
ここ数カ月で、老人のしわくちゃの手に、さらに深い皺が刻まれてしまったことを私は知っていた。
「花嫁様」を飢えさせるわけにはいかない。
神様の元に嫁ぐために、万全の体調でい続けるのが私の仕事のようなものだった。
……目の前の老人はおそらく殆ど食べていない、そう知ってはいたけれど。
私は毎日薄くなっていく粥をしっかり食べた。
それしか、できなかった。
私が居る洞窟には結界が張ってあって、翁か、翁が入ることを許した者しか入れない。
逆にいえば、翁の許しがなければ、外にも出られない。
私は翁の運ぶ粥を食べる以外、選択肢はなかった。

それもこれも。
すべては。
私が、大鵬様の花嫁になることを定められていたから。
そのためだけに、私は今日まで生かされていた。

「七年間。……よく尽くしてくださいました。大鵬様にとって、私はまだまだ子どもでしょうね」

「……花嫁様」

「それでも、私には翁の言う『神通力』が備わっているのでしょう?」

「それは、この老いぼれが保証しますじゃ」

「そう」

私は私が生まれた時のことを知らない。
赤ん坊だったのだ。記憶がなくて当たり前だ。
だが。
位の低い神々が、幼い身に宿る力を喰らおうとやって来た……そう、翁には聞かされていた。
私は静かにため息を吐いて、それから真っ直ぐに翁の目を見た。

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設定タグ:和風ファンタジー , 妖怪 , 羅刹   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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一花(プロフ) - Nonさん» (続)しかし、物語にのめり込める……そう仰っていただけ嬉しいです。ありがとうございます。国語力は……常に平均レベルでした(汗) 夢想力は多少あるかもしれません(笑) Nonさんこそ、とても誉め上手です。沢山、嬉しい言葉をくださり、ありがとうございます! (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - Nonさん» ありがとうございます。後編もなるべく楽しんでいただけるよう、精進いたしますね。少し間が空きますが、公開時は宜しくお願い申し上げます! それから、文章……お褒め頂き有ありがとうございます。力があるかは私自身は判断を読者様に委ねるしかできません(続く) (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂.さん» ありがとうございます! ボード、確認いたしました。本当にありがとうございます! レスさせていただきましたので、またご覧下さると幸いです。本当にありがとうございます! (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
Non - どうも、またNonです。後編すごく楽しみにしてます!一花様はほんと文章力が凄くあると思います。国語とかは得意なほうでしょうか?凄く物語にのめり込めるので大好きです!あと、誉めるのもとても上手いですよね! (2014年8月26日 6時) (レス) id: 240a63bd27 (このIDを非表示/違反報告)
光珂.(プロフ) - こんにちは。 前編完結、おめでとうございます!  誤字脱字のチェックをしたのですが、諸事情でボードの方に書かせて頂きました。 お時間のある時に確認お願い致します。 (2014年8月25日 16時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:一花 | 作成日時:2014年7月22日 22時

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