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だから。

私は顔をあげた。

「私は、神様は凄い御方で敬うことしか教わってきませんでした。それが『大鵬様の花嫁』として供物になる私には当たり前でした」

まっすぐ、大鵬を見た。
悲しそうな目。
何故だかわからないけれど、この人にはそんな顔はして欲しくないと思った。

(あぁ、そうか)

――私はまた一つ、気がついた。
私は、さっきの無邪気で明るい大鵬が好きなんだ。きっと。

それならば。

「私を育てた翁も、神様と対等に接する方法は教えてくれませんでした。でも、それをあなたが望むなら、私は学びたいと思います。――『大鵬』」

『大鵬』。
私はその部分を強調して行った。
それから、自分の意思で笑って見せた。

「だから、そんな顔しないで?」

私は悲しげなその人を撫でてあげたくて、手を伸ばした。
まだ子どもの私は、大鵬の腰に届くかどうかの背だったから。
どれだけ頑張って背伸びをしても、その頬まで手は届かなかったけど。


――かわりに。

大鵬の方が屈んでくれた。
私の目をじ―――っと見つめて。
それから、白い歯をみせて破顔した彼は、とても嬉しそうだった。

「うむ! やはり我が赤子のころから注目していた女子であるな!」

そういって、豪快に笑う。
扇を持ってない左手でがしがしと頭を撫でまわされた。
それから。

「これを受け取れ」

右手の扇を私の手の中に押し付ける。

「――っ!?」

重い。ただの扇子にしては重くて、……そして冷たい。
急に氷の塊を持たされた気分。

「それは、大陸から渡ってきた品だ」

ただの扇ではないぞ! と愉快そうに説明しだす。

「少々重いかもしれんが、武器としても使える。鉄でできた代物だ」

「……鉄?」

「石をも砕く強靭さが売りの素材だぞ!」

「はぁ……」

自慢げに言われたけど、石を砕く必要のある場面が想像できず、ぽかんとしてしまう。

「その扇には我の呪いもかかっておるからな。我の花嫁となれば、他の妖に狙われんとも限らんからな! 襲ってくる奴はその扇で叩くがよい!」

「う……うん」

私は頷いては見せたけど。
大鵬の言う意味はいまいち理解できなかった。

(……大鵬の花嫁が襲われるってどういうこと?)

大鵬は人喰いの神様として有名だ。
今はこうして優しくしてくれていても、いつかは食べられるんだろうな、と思っていた。
でも。
私はこの神様の明るさが好きになってきていたから。
食べられるまで、この人の望む私で居ようと思い始めていた。

▼→←五章『名付けの儀式』



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設定タグ:和風ファンタジー , 妖怪 , 羅刹   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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一花(プロフ) - Nonさん» (続)しかし、物語にのめり込める……そう仰っていただけ嬉しいです。ありがとうございます。国語力は……常に平均レベルでした(汗) 夢想力は多少あるかもしれません(笑) Nonさんこそ、とても誉め上手です。沢山、嬉しい言葉をくださり、ありがとうございます! (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - Nonさん» ありがとうございます。後編もなるべく楽しんでいただけるよう、精進いたしますね。少し間が空きますが、公開時は宜しくお願い申し上げます! それから、文章……お褒め頂き有ありがとうございます。力があるかは私自身は判断を読者様に委ねるしかできません(続く) (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂.さん» ありがとうございます! ボード、確認いたしました。本当にありがとうございます! レスさせていただきましたので、またご覧下さると幸いです。本当にありがとうございます! (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
Non - どうも、またNonです。後編すごく楽しみにしてます!一花様はほんと文章力が凄くあると思います。国語とかは得意なほうでしょうか?凄く物語にのめり込めるので大好きです!あと、誉めるのもとても上手いですよね! (2014年8月26日 6時) (レス) id: 240a63bd27 (このIDを非表示/違反報告)
光珂.(プロフ) - こんにちは。 前編完結、おめでとうございます!  誤字脱字のチェックをしたのですが、諸事情でボードの方に書かせて頂きました。 お時間のある時に確認お願い致します。 (2014年8月25日 16時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:一花 | 作成日時:2014年7月22日 22時

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