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四章『神様方の力模様』 ページ17

――風。
そよそよと。……頼りない風。
それが先ほど、私と朱姫様が大蛇に乗って滑り込んできた場所。
庭の池に面した、開け放たれた障子戸から吹いてきた。

その風が、ふよふよと部屋を回る気配。
微かな神気を感じた。
その気配を追って。……私は初めて、今いる部屋を見回した。
長い年月、そこで誰かが暮らしていた。
そう分かる、色あせた畳が敷き詰められていた。
土でできた壁は畳と同じ色。
部屋の奥には、日焼けして、ところどころ濃い茶色の染みのある襖。
そこには、色あせた青い塗料で、波の絵が描かれていた。

風がくるくる部屋のなかを回る度、その勢いが強くなっていく。
はたはたと、白衣の袖がひらめいた。
それから。

ピュン、ピュン、ピュン!

突然勢いを増した風。
高い風切り音。……耳が痛くて、思わず耳をふさぐ。
強い風が、辺りの壁や床の畳、襖……部屋の全てをカタカタと震わさせていた。
びりびりした衝撃が、私の頬にも伝わってきたら。
大鵬が私の前に立ってくれた。
まるで。
私を庇うようにして。
……目の前に、大きな黒い背中と、翻る薄赤茶の髪。

(……綺麗)

大鵬の髪は、風にはためきながら、外から入ってくる金色の太陽の光を浴びて。
きらきらと、まるで火花のように見えた。
それは。
生まれ育った洞窟の中で、夜に灯されていた篝火の木が爆ぜるとき。……舞い散るそれより、もっと輝いて。
眩しかった。



*
いつまで見惚れていたのだろう。
気が付いたら風がやんでいた。部屋に、誰かが増えた気配。
目の前にある大鵬の背に隠れて、その姿は見えないけれど。
代わりに。
大鵬の両肩が大きく持ち上がって、それから一気に落ちたのが見えた。
それから、――はぁ、と大きなため息も聞こえてきた。
大鵬が左手で乱れた髪を掻きあげて。

「――おい、老(ろう)……」

少しうんざりした声をした。

「おやおや、老体に鞭打って参上したというのに、その残念そうな呼び方はあんまりですぞ」

しわがれた老人の声が、めそめそと嘆く。

「老師父(ろうしふ)よ。……そなた、自覚があるのであれば、少しは自重してはどうだ?」

「ほっほっほ。儂の起こす風など、お主の本気に比べればお茶目な老いぼれの遊びじゃろうに」

「そのお茶目な遊びで、そなたはこの屋敷を壊す気か……?」

大鵬は少し、怒ったお声。

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設定タグ:和風ファンタジー , 妖怪 , 羅刹   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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一花(プロフ) - Nonさん» (続)しかし、物語にのめり込める……そう仰っていただけ嬉しいです。ありがとうございます。国語力は……常に平均レベルでした(汗) 夢想力は多少あるかもしれません(笑) Nonさんこそ、とても誉め上手です。沢山、嬉しい言葉をくださり、ありがとうございます! (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - Nonさん» ありがとうございます。後編もなるべく楽しんでいただけるよう、精進いたしますね。少し間が空きますが、公開時は宜しくお願い申し上げます! それから、文章……お褒め頂き有ありがとうございます。力があるかは私自身は判断を読者様に委ねるしかできません(続く) (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂.さん» ありがとうございます! ボード、確認いたしました。本当にありがとうございます! レスさせていただきましたので、またご覧下さると幸いです。本当にありがとうございます! (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
Non - どうも、またNonです。後編すごく楽しみにしてます!一花様はほんと文章力が凄くあると思います。国語とかは得意なほうでしょうか?凄く物語にのめり込めるので大好きです!あと、誉めるのもとても上手いですよね! (2014年8月26日 6時) (レス) id: 240a63bd27 (このIDを非表示/違反報告)
光珂.(プロフ) - こんにちは。 前編完結、おめでとうございます!  誤字脱字のチェックをしたのですが、諸事情でボードの方に書かせて頂きました。 お時間のある時に確認お願い致します。 (2014年8月25日 16時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:一花 | 作成日時:2014年7月22日 22時

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