夏が死んだその日【文スト】【東京喰種】

実験 ページ8

その人は、いろんなものを持っていた。


「…アンタの、再生能力を実験したい…。」


と、云いその人は満面の笑みを浮かべナイフやら何やらを私に投げつけてきた。
私は突然の出来事と、衝撃で何も反応できなかった。
いや、そもそも手や足を拘束されている時点で避けられないのだが。

投げられたナイフ達は見事に私の体に刺さる。
鋭い痛みが体を襲った。
しかし、声が出ない。


「痛くないのかなぁ…？」


と、その人はナイフを抜きにこちらに歩いてきた。
ナイフが抜かれると、体の傷と痛みが次第に消えていくのがわかる。
このくらいなら、我慢できると私は思った。
だが、その考えが間違えだった。
安易、だった。


地獄は此処からだった。
出てきたのは、そんなものどっから用意したのかと聞きたくなるような大きな武器や、真新しいペンチ、注射器、とにかく拷問でもするのかと疑いたくなるような物ばかりだった。

そのようなものを、その人は軽々扱う。
まるで私を実験のネズミと見ているように。
大きな武器で体を切られそうになる。


此処から、先、私の記憶は途切れた。
何をされたか覚えていない。
私の脳は恐怖と、痛みで限界を超えた。

ただ、唯一薄らと記憶に残っていたのは
私の体が真っ赤になる程痛めつけられ、
爪が再生しては無くなり再生しては無くなるため、
中に血が溜まり黒くなっていたこと。


やっと、記憶がはっきりと脳に刻まれるほど世界が鮮明になる頃には私の心も体力もズタズタだった。
視界は霞み、気持ちも憂鬱で、体力はぶら下がるので精一杯な程に。

誰かが、こちらに向かって歩いていた。
誰かはもう分からない。理解できるほどの体力も気力も満腹感もない。
その人はただの食料にしか見えない。
ああ、お腹が空いた。
お腹が、お腹が空いた。


「…頑張ったな。」


と、その人は私の口元に何かを付けた。
美味しそうで、柔らかくて、温かいもの。


「…この前の戦いでマフィアが処理しきれなくなった死体だ。
Aに食わせるのも、死んだ此奴等が手前と同じ人種の餌になるのも両方、正直御免だ。
だが、手前には生きていてもらわないきゃなんねえ。」


私は与え続けられるそれをひたすら食べる。
美味しかった。
美味しすぎて、私は安心して眠くなった。
お腹がいっぱいになったものの相変わらず、私にその人を誰かと認識できるほどの気力と体力はなかった。
だが、安心して眠ることはできた。
そして、その人に感謝を伝えるほどの体力が戻った。

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