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ナツが死んだその日 ページ29

「中也さん。」



私はベンチから、ゆるりと立ち上がる。
両手を後ろで組み、ぐるりと、体を中也さんの方に向けた。

そして、ニコッと笑う。



「私、人でしか栄養取れないんです。」



満月が、私を照らす。
黒い光が照らした、言葉は暗闇に儚く消えていく。

口の、息の震えが止まる。
そして、体が震える。

怖かった。

柔らかく吹く風が、とても冷たく感じた。

夏の夜の冷たい風だった。
夏の終わり、それを伝えられたような気がした。


夏の暑さを忘れるほど寒くなる秋のように、
私は彼の中で、彼が持っていた私に対する興味の感情がなくなるのがわかった。
セミが死ぬように、人間として見ていた私が彼の中で死ぬ。

そして、酷く冷たい言葉を私は待っていた。

でも、彼は笑った。
確かに、笑ったのだ。
そして、


「知ってたに決まってんだろ。」


そう笑う彼は、私の脇の下に手を入れ、子供を扱うような高い高いをした。
そして、時計回りに、ぐるりと回る。
遠心力で足がふわっと浮く。
私は情けない声で


「いつからですか!?」


と、叫ぶ。


「初めて会った、いや。
この公園で会った時から、疑ってはいた。
ヒトじゃねぇな、くらいにな。」

「でも、人喰いは嫌いだって…マフィアの人が…」


それを聞くと、彼は止まった。
彼は、静かな声で


「な訳ねぇだろ。」


そう、ただ、そう云った。
彼は優しく私を地面に下ろす。
そして彼は私の目線まで屈み、更に両腕をガシリと掴んだ。



「手前が、人喰いだろうが、グール?だろうが関係ねぇ。
それに、手前、Aがその体質、流れる血を恨む必要もねぇよ。」


なんなら…と、彼は華奢な指で私の目の下を親指で拭う。


「ナツ?だかなんだか忘れたが、ナツは手前じゃねえ。AはAだ。」


その時、喰種(ナツ)が死んだ。
私の中で、喰種(ナツ)としての私に対しての恨みがなくなったのだ。

そして、私は情けなく、まるで子供のように、涙を流した。


「泣くんじゃねぇよ。」


と、彼は手袋を外して両手で流れた涙を拭ってくれた。
しかし私の涙は止まらなかった。


「そんな事、云われたことなくて、嬉しくて」


そう云いたかったが喉が跳ね、うまく声が出せなかった。
それでも彼は何を云いたいのかわかってくれた。


「…辛かったな。頑張った、頑張った。」


彼は、優しく撫でてくれた。
人の温かさを、喰種じゃない人の温かさを初めて知った。

夏の終わりと始まり→←真実に勇気を



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設定タグ:文スト , 転生 , 東京喰種
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hitoesasami(プロフ) - 珈世さん» >>また、他にも評価が高い作品が多い中で、この作品を読んで頂きありがとうございました。 少しでも楽しませられたら幸いです。 本当にありがとうございました (2020年2月20日 7時) (レス) id: 41b3c0e585 (このIDを非表示/違反報告)
hitoesasami(プロフ) - 珈世さん» ご指摘、ありがとうございました。本当に助かります…orzすぐ、誤字や誤った設定をしてしまう癖があり、誤字などがある作品の印象って悪くなると思うんです…。なので、珈世さんのような方がいらっしゃると本当に助かりますorz >> (2020年2月20日 7時) (レス) id: 41b3c0e585 (このIDを非表示/違反報告)
hitoesasami(プロフ) - Nightさん» >>また、文ストと混ると言うことは、文ストは好きだけどグロは苦手、と言う人も読めるような、マイナスな印象を与えず書けていたみたいで良かったです。 最後になりますが、他にも引き寄せられる作品がある中で読んでいただき本当にありがとうございました。 (2020年2月20日 7時) (レス) id: 41b3c0e585 (このIDを非表示/違反報告)
hitoesasami(プロフ) - Nightさん» Nightさん、コメントありがとうございます。内容を好んでいただけて、本当に嬉しい限りです…昇天できます…。それと、文ストと混ぜる、そして文ストの世界に転生する夢主が喰種という不思議な設定が上手く惹きつけられる要素になっているようで安心しています…orz >> (2020年2月20日 1時) (レス) id: 41b3c0e585 (このIDを非表示/違反報告)
hitoesasami(プロフ) - 夜雨ナナトさん» >> 最後になりますが、数多くの作品の中でこの作品を読んで頂きそして、応援していただき本当にありがとうございました (2020年2月20日 1時) (レス) id: 41b3c0e585 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:hitoesasami | 作成日時:2020年1月15日 0時

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