夏が死んだその日【文スト】【東京喰種】

敵対意識さえなければ ページ2

【狩る者は 狩られることを考えない】


機会を狙う。
彼らの恐怖を覆し、私が人喰いでないと云うことを錯覚させる為の。
ただし、もしダメなときは。

私は喰種だ。
やる時はやるしかない。

そのことを念頭に置く。


「Aちゃん、どうなの？」

「答えて。」


敦さんと谷崎さんに立て続けに聞かれる。
私は息を吸う。
出す声の割に吸う息をわざと大きくした。
注目を更に集めるためだ。
自分の聞きたいことから、私の云いたい事へ。


「ナオミさん、今日は一緒じゃないんですね。」

「そんなことはどうでもいい。」


谷崎さんの目が変わった。
何かに怒りの感情を抱いたようだ。


「…一つ云えば、私はあなた達を食べるか食べないかと云う選択肢を与えられたとしたら、答えはノーだ。
人喰いじゃなくてもね。」


私は睨む。
全員、恐怖よりも相手を責めたいという気持ちの方が強いことがわかる目だった。
一瞬でも恐怖に負けた人を見つけるために睨む。
敦さんがひっ、と少し肩を竦めた。


「なんで人喰い虎、といわれたのにただの人喰いはダメなんでしょうね。」

「貴様を警察もしくは公安に突き出す。」

「話は聞かないと。話を聞かないなんて不平等だなあ。」


と、更に睨む。


「無駄だ。こっちには太宰がいる。
お前のようなか弱い奴が無駄な抵抗にすぎん。」

「.…さあね。
一つ確認させてください。
あなた達は私に敵対意識があるんですか？
あわよくば、首を取り、街のヒーローにでもなりたい、そんな欲望に塗れた敵対意識が。」

「…元々君の両親はマフィアに狙われていた。
その時点で疑うべきだったよ。」


太宰さんは冷たく云い放つ。


「…なんでAちゃんは僕たちのことを裏切ったの？」


と、敦さんがポツリと言葉を繋げるように云った。
その言葉に、わたしは聞き覚えがあった。
嫌な記憶の一つ。


「…裏切ってないよ。人にだって1つや2つ隠したいことはある。」

「黒だな。」


と国木田さんが云う。
携帯電話を取り出して、彼は電話を掛けようとする。


「…貴様を合格にさせた俺が馬鹿だった。」


『あんたを産んだ私が馬鹿だった』


「またそうやって。」

「は？」


国木田さんのボタンを押す手が止まる。


「敵対意識がなければ、こっから逃げることも抵抗もしなかった。話さえ聞いてくれれば、別だった。」


彼らが私の消したい過去の人と重なる。


「どいつもこいつも、ほんっと自由だな。

でもまあ、おかげで心置きなく逃げられる。」

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