side:utu４ ページ43
テラスの椅子に腰掛けて揺れる意識に身を任せる。
温かな木漏れ日、鳥のさえずり、風に乗ってやってくる緑の匂い…それと。
「おかえりなさい、先生。」
自然の中で浮いた煙草の匂い。
目を瞑っていても分かるそれにうわ言のように呟いた。
でも、何か違う。
「ただいま、染井ちゃん。」
その声に揺れていた意識は急速に浮上する。
勢いよく開いた目にはあり得ない光景が広がる。
これは夢だろうか。
だってここは屋上でもなければ準備室でもない。
鬱先生がここにいるはずない。
鬱先生の煙草の匂いなんて私にはいつだって思い出せる。
風に揺れる黒髪だって、何度だってあの屋上で見てきたはずだ。
「パンツ見えてるけどええの？」
この言葉も何度だって脳内で再生されたではないか。
そうだ、だからこれは夢なのだ、だから何を言ってもいい。
「いいんですよ、鬱先生になら。」
「僕になら？」
「だって今更でしょう？」
私が笑えば鬱先生も笑う。
なんて素敵な夢、なんて残酷な夢。
こんなもの見せられたら、もう二度と目を覚ましたくなくなってしまう。
ゆっくりと近寄る先生の姿に、まるで金縛りにあったように動かない体。
目の前で立ち止まった鬱先生の手が、私の頬に触れる。
冷たい手、何度も思い出した鬱先生の手だ。
「ほんま今更やな。」
やはりこれは夢だ。
だって鬱先生がこんな風に笑うなんて。
まるで愛しいとでも言うような目を私に向けるなんて。
「今更、逃げた女が惜しくなったんやけど。」
「最低ですね。」
「そうなんよ、でもそういうの好きやろ？」
「はい、私も最低なので。」
「ふはっ、ならお似合いやな。」
冷たくて柔らかい感触が唇に触れる。
幾度となく思い出した煙草の味が口の中に広がった。
夢にしてはリアル過ぎる感触、それに。
「相変わらず手が早いですね、普通もっと雰囲気考えません？」
「それこそ今更やろ。」
スカートの中に侵入する手は、はっきりとこれが現実なのだと理解させた。
最低で最高、これこそが私の大好きな鬱先生だ。
「なぁ佳乃、この紐解いてもええ？」
いつかも言われた台詞。
答えなんて当然決まっているじゃない。
「いいですよ、鬱先生の為に履いてるんだから。」
顔を見合わせて同時に吹き出した。
檻の中から飛び出した、何も持っていなかった私が手に入れた物。
自由と、傍で香る煙草の匂い。
それは私がずっと欲しかったものだった。
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違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
アオ - コメント失礼します。思わず一気読みしちゃいました！貴方様は神ですか？ありがとうございます。 (2022年1月28日 22時) (
レス) id: 99e64baad8 (このIDを非表示/違反報告)
か(プロフ) - この作品を生み出してくれて本当にありがとうございました。 (2020年3月30日 16時) (レス) id: f33d68be6d (このIDを非表示/違反報告)
なな - 単推しとニ推しとか…もうにやけとまんねぇ() 語彙力分けてほしい(( (2019年9月7日 17時) (レス) id: 49b689c972 (このIDを非表示/違反報告)
藤宮、(プロフ) - コメント失礼します…！！もう文面も設定も好みのドストレートすぎて思わず一気に読んで、衝動的にコメントを書いてしまいました。本当に楽しませていただきました。素敵な作品をありがとうございました！！ (2019年1月11日 0時) (レス) id: b4451f6a6c (このIDを非表示/違反報告)
みたら士(プロフ) - 一話目からドストライクすぎてﾝﾝｯｯってなってます本当にありがとうございます崇めます (2018年12月3日 21時) (レス) id: d493129e91 (このIDを非表示/違反報告)
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