パンタシア Ⅲ (ページ36)

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110話ページ36

フィールドに戻ると、木戸川の選手の...名前がわからない人が近づいてきた。
なんだろうと首を傾げると、ばっと頭を下げて謝ってくる。

｢え、えと、顔上げて？｣

何かされたような覚えがなく、両手を前に出し、宥めるように言うと、渋々と顔を上げてくれた。

和泉｢肩、怪我させてしまってすみません｣

さっきのタックルしてきた人はこの人なのか、と納得したように手をぽんと叩くと、不思議そうに首を傾げられた。
よく見たら結構可愛い。
でも声は男っぽい気もする。

｢気にしなくて大丈夫よ。そこまで酷くないわ。まぁでも、レディに怪我させるのはよくないから私はいいとして他のレディには気をつけて接してね｣

言い終えると同時にウィンクをし、背を向けて自分のポジションへ戻る。

そしてすぐに私にボールが回ってきた。
パスを受け取り、ドリブルをしながら周りを見た途端。

｢ひ、...！｣

運良く、いや運悪くピッチダウンが目の前で起こり、座り込んでしまった。

体が震え、息が浅くなっているのを感じながらも、どうすればいいかわからず、ただゆらゆらと揺らめく水面を見つめていることしか出来ない。

じわ、と目頭が熱くなり、耐えるように唇を噛むが、震えは耐えれず震えたままだ。

___ふわ、と良く知る匂いが私を包み込んだ。
柑橘系のようなさっぱりとした匂いと暖かい体。

抱きしめられている、というのを理解するのに時間は掛からなかった。

剣城｢大丈夫だ。俺がいる。絶対助ける。
深呼吸するんだ｣

回された腕に手を添え、ゆっくりと深呼吸をすると、震えが収まってきたのがわかった。

剣城くんの言葉だけで、温もりだけで震えが止まったのに驚くが、有難うと告げ、立ち上がった。

｢剣城くん、絶対勝とうね｣

笑顔を向けながらそう言うと、剣城くんも笑顔を浮かべて頷いてくれた。
それに心が暖かくなったような気がして、勇気も湧いた。

もう大丈夫。
もう怖くない。

私が水を克服できた瞬間だった。