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緊張でどうにかなってしまいそうだった。
それを封じ込めるようにして、酒や菓子に伸びる手は進む。
「そこまでだ」
不意に手首を掴まれて、動きを制される。
びっくりして降谷を見れば、にっこりと笑って、
「それ以上酒に飲まれちゃ、君の本音が聞けなくなる」
すっと真剣な顔つきになった。
そして彼は横並びに座る。
距離空けることもなく、テーブルに手を伸ばすたびに腕が触れる距離だった。
「それで、なぜ急に君は僕に付き合おうと言ったんだ?
恋愛感情を…持ってくれたとしても、
冷静な君が言うにしてはあまりにも唐突過ぎると思う」
降谷は全てお見通しだった。
とはいえ、自分が退職するまでの間の短期間だけでも恋人ごっこをしてくれという浅はかな考えをぶつけることはできなかった。
それを降谷が承諾してくれたところで、短期間という部分だけは許さないだろう。
遠距離でも何でも形はあるだろう、そう切り出されるに違いない。
どう言えばか迷っていると、降谷は大きく息を吐いた。
「じゃあ。先に僕の返事を言おう。
答えは、ノーだ」
正直想像していなかった言葉に面食らった。
降谷が自分のことを好きでいてくれている、そう勝手に自負していたからだ。
(私が答えを出すのが遅すぎたからか)
そう感じ始めていると、彼は楽しそうにAの額を軽く叩いた。
「別にネガティブな意味じゃない。
君のことは好きだよ」
戸惑っている女に、男は眉を下げた。
「好きだからこそ、君を不幸せにしたくない」
言っている意味が理解が追い付かず、茫然とするばかりだ。
不意に降谷は哀しそうな顔をして下を向いた。
「君は僕と同じだ。
萩原、松田、伊達…他の同期に比べ親交があった唯一の関係者だ。
だからこそ、亡くす痛みを知っているはずだ」
「……つまり、総代もそうなりそうだってこと?」
萩原がいなくなった時が蘇って、寒気が襲ってくる。
降谷は否定せず、寂しい瞳をしたまま、
「…むしろ、あいつらよりもそうなりそうな立ち位置にいる。
だから、安室透という男がいるんだ」
あとは想像してくれ、そうその目は言っていて、耐えられなくなって、
「…総代と一緒で、
亡くす痛みが分かるからこそ、私は総代を支えられるよ」
少し震えた大きな手の上に、両手を重ねた。
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Nattu(プロフ) - 白雨さん» 白雨さん初めまして!キッドも二面性があるという点で何度かこの作品のキーマンになりつつ、青子ちゃんいるしなあ〜の気持ちでした!笑でも、書いてみたい欲はこの作品に出てくるくらいなのでチャレンジしたいと思います!大好き、ありがとうございます* (11月6日 16時) (レス) id: 3f1ef1106e (このIDを非表示/違反報告)
白雨 - シリーズの最初の頃から毎日読ませて頂いてます。大好きです!((次回作について、怪盗キッド落ちを希望します! もちろんキッド様には青子ちゃんがいますが、この作品で何度か出ているキッド様が好きで…ご検討して下さったら嬉しいです!これからも応援しています! (11月5日 10時) (レス) @page19 id: f5a7983f74 (このIDを非表示/違反報告)
Nattu(プロフ) - かるぴんさん» かるぴんサンありがとうございます!私の作風(?)に合わせてヒロくんをリクエストをいただきありがとうございます;;作風まで言われることは滅多にないのでとても嬉しいです‼︎穏やかお兄さんヒロくんも迷いますね…検討させていただきます!ありがとうございます (10月20日 3時) (レス) id: 37a11942bb (このIDを非表示/違反報告)
Nattu(プロフ) - 紫苑さん» 紫苑サン、いつもありがとうございます!またリクありがとうございますー!赤井さん愛され〜クールだからこそ見てみたい感はありますね…ンン迷う…参考にさせていただきます‼︎ありがとうございます! (10月20日 3時) (レス) id: 37a11942bb (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 新たな展開にワクワクです。この小説が毎日の楽しみです!次回作を検討されているとのことですが、私は諸伏景光を希望します!Nattuさんの柔らかて温かい文章ととてもマッチすると思います!これからも応援してます!お体に気をつけて(*´-`) (10月20日 3時) (レス) @page1 id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2023年10月18日 16時