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自分の負けだと思った。
どんなに彼を突き放したところで、きっと彼はどこまでも自分を探し、こうして捕まえに来る。
それがますます自分の彼に対する思いを加速させていく。
こうしてまた会いに来るまでの間に、彼は自分に纏わりつく危険とAとの関わりを何度も天秤にかけたはずだ。
一度別れても、こうしてまた会いに来る。
それが、彼が最終的に出した結論なのだと、勝手に解釈した。
(漫画とか、小説みたいだけど、
私はどんな人格でも、この人が好きだ。
好きで溢れて、どうにかなりそうだ)
カップを突き出しながら、ぎゅっと胸が締め付けられる。
(貴女が自分の気持ちに、自分の立場に、逃げないのなら、立ち向かうなら、
私も、自分の気持ちと、
貴方に向き合うよ)
彼の目を見ながら、一人彼に返事をして頷く。
目の前の男は何かをくみ取ったのか、同じように頷いて、カップを押し当てる。
そして、二人で静かに珈琲を一口。
顔を見合わせて、
「初めまして。
ここの店の評判がいいって聞いて来たんだけど、
貴方の名前は?」
「初めまして。
貴方は何というお名前で?」
口角を上げ、
「Aです。ここの店長をしています」
「降谷零です。警察官をしています」
「「 これから、よろしく 」」
そして、照れくさくなって二人で笑い合う。
また、一からのスタートだ。
でも、もう怖くない。
「Aか。僕の知り合いの名前と一緒だ」
「奇遇ですね。私の知り合いにも同じ名前の人がいて」
本棚の奥底に隠していたアルバムを取り出して、机上に置く。
彼の目は大きくなった。
「ちゃんと、まだ持っていたのか」
そう彼は独り言た。
ぱらぱらと捲り、自分の在籍していたクラスのページ。
そこには真面目な顔をした同じ名前をした二人。
互いに互いの顔写真を指差して、
「「 久しぶり。また会えたね 」」
顔を見合わせる。
傍から見れば猿芝居でも、今目の前にいる彼はこれまで出会ってきた彼とは別人。
そう思うと、これからまた新しい彼の一面を知ることができる、そんな気がして嬉しくなった。
アルバムには、亡くした友人達がいて、今の自分達を見つめている。
きっと萩原は悔しいけどおめでとう、松田は結局かよ、そう言っているような気がしてきて、顔をあげれば、
「うん。美味しい珈琲だ」
零は嬉しそうにそう言った。
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-Fin-
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Nattu(プロフ) - 白雨さん» 白雨さん初めまして!キッドも二面性があるという点で何度かこの作品のキーマンになりつつ、青子ちゃんいるしなあ〜の気持ちでした!笑でも、書いてみたい欲はこの作品に出てくるくらいなのでチャレンジしたいと思います!大好き、ありがとうございます* (11月6日 16時) (レス) id: 3f1ef1106e (このIDを非表示/違反報告)
白雨 - シリーズの最初の頃から毎日読ませて頂いてます。大好きです!((次回作について、怪盗キッド落ちを希望します! もちろんキッド様には青子ちゃんがいますが、この作品で何度か出ているキッド様が好きで…ご検討して下さったら嬉しいです!これからも応援しています! (11月5日 10時) (レス) @page19 id: f5a7983f74 (このIDを非表示/違反報告)
Nattu(プロフ) - かるぴんさん» かるぴんサンありがとうございます!私の作風(?)に合わせてヒロくんをリクエストをいただきありがとうございます;;作風まで言われることは滅多にないのでとても嬉しいです‼︎穏やかお兄さんヒロくんも迷いますね…検討させていただきます!ありがとうございます (10月20日 3時) (レス) id: 37a11942bb (このIDを非表示/違反報告)
Nattu(プロフ) - 紫苑さん» 紫苑サン、いつもありがとうございます!またリクありがとうございますー!赤井さん愛され〜クールだからこそ見てみたい感はありますね…ンン迷う…参考にさせていただきます‼︎ありがとうございます! (10月20日 3時) (レス) id: 37a11942bb (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 新たな展開にワクワクです。この小説が毎日の楽しみです!次回作を検討されているとのことですが、私は諸伏景光を希望します!Nattuさんの柔らかて温かい文章ととてもマッチすると思います!これからも応援してます!お体に気をつけて(*´-`) (10月20日 3時) (レス) @page1 id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2023年10月18日 16時