70 ページ10
.
萩原を追うように彼らに辿り着いたもの、その時間はほんのわずかだった。
松田、伊達と不運にも立て続けに不幸が相次いだ。
「…萩原君。君の大事な人達もそっちに行っちゃった」
彼の遺灰を前に独言る。
そこに返事はない。
松田の別れには立ち会えなかった。
用事があったわけでもない。
萩原にとって大事な存在すぎるが故の人間だったからこそ行けなかったのだ。
それを察したのか、伊達から連絡が来たのを覚えている。
ただそんな彼も同じようにいなくなってしまっていて。
(…伊達さんの別れだけでも立ち会おう)
胸ポケットに萩原と松田の隙だった銘柄の煙草をお守り代わりに仕舞い、参列した。
そこで見たのが、関係者席の前の方で涙を流していた若い男、高木だった。
同僚と思わしき男から慰められていたのを思い出す。
(皆夫々大事な人がいて、残して行っちゃったんだね)
Aは高木とは違っていた。
確かに交流はあった。
しかし彼らほど親交があったわけではない。
ただ、
『荻原なら絶対に見送りにくるだろう』
そう思い式場に訪れていた。
彼のように涙は出てこない。
ただ自分が残されていくという空虚で、寂しさが溢れて茫然としているだけだった。
葬儀が終わり、そのまま流れるようにして荻原の元を訪れた。
そこにはついさっきまで誰かがいたであろう形跡の線香が一つ。
もう夜も遅い。
彼の親族ではないだろう。
(私と同じ考えならもしかして…)
忘れかけていた、彼の存在が頭に浮かんだ。
ただ学校の時以来彼とは会っていない。
褐色肌と金髪は覚えているものの、はっきりと顔が浮かばない。
帰るなり、本棚に直しこんだアルバムを開く。
指で辿り、
「降谷…零」
総代を見つけた。
整った顔立ちの男がまっすぐこちらを見つめている。
その近くにはこの世を去った彼らと、最近姿を見せなくなった彼らのもう一人の仲間もいて。
(この人…今の私と同じなんじゃ)
仲間を見つけた気がして、心臓の音が早くなった。
しかし、彼の行方は分からない。
それどころか、萩原が言っていた言葉が頭を巡る。
『まだ、零が好き?』
それと共に、アルバムを捲れば捲るほどに
『凄い…プロ顔負けだな』
過去の感情は一気に蘇って。
「私…ふらふらいろんなこと考えて最低だ」
荻原という十字架が背中に重く伸し掛かっていた。
.
.
.
312人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Nattu(プロフ) - 紫苑さん» コメントありがとうございます!すごくすき…待つ…!嬉しい言葉が並んでいて元気になりますありがとうございますっっ;;仕事に精を出しつつ好きな文字書きに手を出せたらなあと思います*応援コメありがとうございます^^ (8月29日 3時) (レス) id: 37a11942bb (このIDを非表示/違反報告)
Nattu(プロフ) - Sanさん» うあぁあ!コメントありがとうございますとても嬉しいです;;仕事で疲れていたので嬉しい言葉ばかりで身に染みますありがとうございます;;;頭には書きたいことだらけなので文字にできるよう努めて行きます〜! (8月29日 3時) (レス) id: 37a11942bb (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - お仕事なら仕方ないです!主様のお話すごく好きです!いつも応援してます!楽しみに待ってますヾ(๑╹◡╹)ノ" (8月26日 8時) (レス) @page25 id: 0664a97245 (このIDを非表示/違反報告)
San(プロフ) - うあぁぁぉぉぉ!!最近から読まさせていただいているのですが、最高すぎて更新🆙をいつもいつも楽しみにしていました!お仕事は仕方ない、、応援してます❤️🔥💪楽しみにしてます!!! (8月26日 3時) (レス) @page25 id: c9bd71387a (このIDを非表示/違反報告)
Nattu(プロフ) - もなかさん» もなかさん初めまして!コメントありがとうございます!安室さんのことが好きな方に楽しんでいただけてとても嬉しいです;;ありがとうございます! (8月15日 0時) (レス) id: 37a11942bb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Nattu | 作成日時:2023年8月1日 23時