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『実は、陣平ちゃんと会わせてからすぐに付き合ったんだ、俺達。
でも、別れを切り出されちまったよ』
初めて萩原がAの話題口に出したのは、久しぶりに四人で集まった時の居酒屋の帰りだった。
男の口から彼女の名前が出たのは、それが最後だった。
その時の萩原の顔は苦い顔をしていて、Aをそれほどに想っていたのかが伝わってきた。
そして、突然の親友との別れ。
目の前が真っ白になり、一瞬その場で状況を理解することができなかった。
事件処理に追われ、彼の葬儀に立ち会えず、何となく家族に会いに行くのも気が引けて少し経って彼の墓を訪れた。
「…ほんとにいなくなっちまったのかよ」
同じくして一報を聞いた降谷達もかなりショックを受けているようだった。
だが、仕事柄皆で訪れるというのには難しく、皆で集まって行く日よりも先に松田は彼の前に立っていた。
そこにへらへらと笑う笑顔はなく、無機質な石が目の前にあって、
(信じたくねえけど…マジだ…)
目頭が熱くなる。
仲の良い同期の中で一番最期までやり取りしていたのは自分だ。
そして、今の部署を選ぶことを最初は躊躇っていた萩原が、自分と同じ部署に居たことは少なからず松田の影響もあったと思う。
そう思うと、自責に駆られてしまう。
胸が苦しくなった。
墓の前で突っ立ったまま茫然としていた時だった。
「陣平ちゃん…?」
彼と同じ呼び名で自分を呼ぶ女。
Aだった。
不意にはっとした顔になり、
「ごめん…萩原君がいつもそう呼んでたから攣られて…」
小さく頭を下げて近づいてきた。
立ったままの松田を置いて、彼女は線香に火をつけた後、煙草にも火をつけて線香と同じ場所に刺した。
静かに目を閉じ手を合わせる。
そんな彼女を見下ろしまま、
「…ハギが言ってたのは本当だったんだな」
「えっ?」
独り言のように言葉を投げかける。
(こいつも、俺と同じで、影を追ってる)
別れたとはいえ、理由が理由だ。
互いに気持ちがあったままでこのような事態になってしまったのだ。
きっとAも辛いに違いない。
それなのに、平然と松田に声をかけてきたのだ。
(ハギ。警察学校の頃からこいつに唾つけてるのは何となく知ってたが、
そういうところが気に入ってたんだな)
「なあ。これから時間あるか」
亡き親友との話が今できるのは彼女なだけ気がして、携帯電話を差し出していた。
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Nattu(プロフ) - 紫苑さん» コメントありがとうございます!すごくすき…待つ…!嬉しい言葉が並んでいて元気になりますありがとうございますっっ;;仕事に精を出しつつ好きな文字書きに手を出せたらなあと思います*応援コメありがとうございます^^ (8月29日 3時) (レス) id: 37a11942bb (このIDを非表示/違反報告)
Nattu(プロフ) - Sanさん» うあぁあ!コメントありがとうございますとても嬉しいです;;仕事で疲れていたので嬉しい言葉ばかりで身に染みますありがとうございます;;;頭には書きたいことだらけなので文字にできるよう努めて行きます〜! (8月29日 3時) (レス) id: 37a11942bb (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - お仕事なら仕方ないです!主様のお話すごく好きです!いつも応援してます!楽しみに待ってますヾ(๑╹◡╹)ノ" (8月26日 8時) (レス) @page25 id: 0664a97245 (このIDを非表示/違反報告)
San(プロフ) - うあぁぁぉぉぉ!!最近から読まさせていただいているのですが、最高すぎて更新🆙をいつもいつも楽しみにしていました!お仕事は仕方ない、、応援してます❤️🔥💪楽しみにしてます!!! (8月26日 3時) (レス) @page25 id: c9bd71387a (このIDを非表示/違反報告)
Nattu(プロフ) - もなかさん» もなかさん初めまして!コメントありがとうございます!安室さんのことが好きな方に楽しんでいただけてとても嬉しいです;;ありがとうございます! (8月15日 0時) (レス) id: 37a11942bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2023年8月1日 23時