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話し始めるなりAは大きな溜息をついた。
「そんなに好きなら告白すればいいのに」
「そう簡単には言えないの!」
こうして恋愛の話をしたのはいつぶりだろうか。
隣のAは机に突っ伏し、耳を赤く染めた。
「こうして同じ職場な訳だし…もし失敗したら空気悪くなるかもしれないじゃない?」
(そんなわけないでしょ。
あの人も貴方と同じ気持ちでしょうに)
「私は安室さんと一緒に仕事できたら…それで、いい…うん、たぶん」
話しながら言葉が尻すぼみになっていく。
子供達の前で見せていた元気のいいお姉さんという印象は消え、カーテンに隠れて怯えている小さな子供のようにも思えてくる。
意外と可愛らしい面もあるのだと、灰原は口元が緩みそうになったのを我慢した。
「でも。そろそろ我慢の限界?」
そう言うと小さく頷いた。
灰原は少しだけ胸が締め付けられた。
自分も彼女と同じように恋心を抱いた相手がいるというのに、こうしてアドバイスする立場にいるのだから。
しかし、Aはただ雑談として少女に接している、それだけなのだ。
歩美だったら何というだろうか。
歩美だったら告白しちゃう、Aお姉さんを応援してるよ、そんなところだろうか。
でも、今の自分にはそれができなかった。
「…難しいところね」
Aと同じくして未だに気持ちを伝えられていないのだから。
否、安室の方へと寄り添おうとするAよりも劣っているかもしれない。
ちょうどよくグラスの中の珈琲がなくなる。
そのタイミングで、
「哀ちゃん、ありがと。聞いてくれて。
って私が勝手に喋ってただけなんだけど」
彼女は申し訳なさそうに笑った。
空っぽになったグラスを回収して、彼女は反対側でそれらを洗い始めた。
何か応援してあげたい、力になってあげたい。
そう思うも、上手く言葉が出てこない。
(ごめんなさいね、あまりに力になれなくて)
静かに机に珈琲代を置き、扉の前に立つ。
大きく深呼吸をして、
「一度同僚と付き合えたんでしょ。
今回の同僚もきっと問題ないんじゃないかしら。
私は…行動に移そうとしている貴方が好きよ」
言い逃げて帰路につく。
(あーあ。自分と対照的だし…お姉ちゃんと話してるみたいで、ペース乱される)
少し懐かしい気持ちになって、目頭が熱くなった。
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Nattu(プロフ) - 紫苑さん» コメントありがとうございます!すごくすき…待つ…!嬉しい言葉が並んでいて元気になりますありがとうございますっっ;;仕事に精を出しつつ好きな文字書きに手を出せたらなあと思います*応援コメありがとうございます^^ (8月29日 3時) (レス) id: 37a11942bb (このIDを非表示/違反報告)
Nattu(プロフ) - Sanさん» うあぁあ!コメントありがとうございますとても嬉しいです;;仕事で疲れていたので嬉しい言葉ばかりで身に染みますありがとうございます;;;頭には書きたいことだらけなので文字にできるよう努めて行きます〜! (8月29日 3時) (レス) id: 37a11942bb (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - お仕事なら仕方ないです!主様のお話すごく好きです!いつも応援してます!楽しみに待ってますヾ(๑╹◡╹)ノ" (8月26日 8時) (レス) @page25 id: 0664a97245 (このIDを非表示/違反報告)
San(プロフ) - うあぁぁぉぉぉ!!最近から読まさせていただいているのですが、最高すぎて更新🆙をいつもいつも楽しみにしていました!お仕事は仕方ない、、応援してます❤️🔥💪楽しみにしてます!!! (8月26日 3時) (レス) @page25 id: c9bd71387a (このIDを非表示/違反報告)
Nattu(プロフ) - もなかさん» もなかさん初めまして!コメントありがとうございます!安室さんのことが好きな方に楽しんでいただけてとても嬉しいです;;ありがとうございます! (8月15日 0時) (レス) id: 37a11942bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2023年8月1日 23時