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ただ梓を送りにきただけのはずだった。
「安室さんとも、飲んでみたいなと思ってたんですよね」
そう言い、彼女は耳に髪をかけた。
宴会場から少し離れたゲストスペース。
売店はもう閉まっていて、受付の奥の従業員控え室の光が付いているだけ。
ぼんやりとした明かりの中で、酒で少し頬を赤くしたAの顔が見えた。
ぬるくなった缶同士をぶつけ、小さな机を前に向き合う。
(美味しくない)
Aも同じような顔をして、小さく溜息をついた。
「安室さんは人気者ですね。
さっきも皆に呼ばれて飲んでたし」
「そんなことないですよ。
皆さんが優しくしてくれるお陰です」
「確かに…皆さん優しいですもんね」
会話のラリーも続かず、沈黙とともに酒を飲みこんだ。
ふと、プールで言われた告白紛いの言葉が頭を過る。
それとともに心臓もばくばくと音を立て始めて、
(もう…いいよな。そろそろ)
Aの方をちらりと見る。
少し落ち着かない素振りのAと目が合って、
「安室さんは、非現実的なことを信じるタイプですか?」
不意に訳の分からない言葉を吐いた。
戸惑い返事に困っていると、彼女は手にある缶を机上に置いた。
「たとえば、幽霊とか…
…ドッペルゲンガー、とか」
試すように、安室を見る。
「さ、さあ。
居たら研究者は研究しがいがあって
面白いんじゃな」
「じゃあ」
安室の言葉を遮ってAは言う。
「私、研究者の人に言ってみようかな。
ドッペルゲンガーを見たって」
先程とは違う。
挑戦的な顔で安室を見ていた。
もう逃がさない。
そう言っているようなくらいに、その瞳はまっすぐで安室をしっかりととらえていた。
徐に隣の机に置いてあった灰皿を取り、荒々しく置いた。
そして、許可をとることなく、胸元から煙草を取り出して口に咥え火をつけた。
机に置かれる萩原と同じ銘柄の箱。
懐かしい煙の臭い。
降谷零を引き付けるかのように、Aはこちらへと誘おうとしていて、
(ああ。もう無理だ。
総代として、彼女の前に立ちたい)
温かい光を掴みたくなって、
「…卑怯な手はやめにしないか。
A」
降谷が言葉を返していた。
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Nattu(プロフ) - 紫苑さん» コメントありがとうございます!すごくすき…待つ…!嬉しい言葉が並んでいて元気になりますありがとうございますっっ;;仕事に精を出しつつ好きな文字書きに手を出せたらなあと思います*応援コメありがとうございます^^ (8月29日 3時) (レス) id: 37a11942bb (このIDを非表示/違反報告)
Nattu(プロフ) - Sanさん» うあぁあ!コメントありがとうございますとても嬉しいです;;仕事で疲れていたので嬉しい言葉ばかりで身に染みますありがとうございます;;;頭には書きたいことだらけなので文字にできるよう努めて行きます〜! (8月29日 3時) (レス) id: 37a11942bb (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - お仕事なら仕方ないです!主様のお話すごく好きです!いつも応援してます!楽しみに待ってますヾ(๑╹◡╹)ノ" (8月26日 8時) (レス) @page25 id: 0664a97245 (このIDを非表示/違反報告)
San(プロフ) - うあぁぁぉぉぉ!!最近から読まさせていただいているのですが、最高すぎて更新🆙をいつもいつも楽しみにしていました!お仕事は仕方ない、、応援してます❤️🔥💪楽しみにしてます!!! (8月26日 3時) (レス) @page25 id: c9bd71387a (このIDを非表示/違反報告)
Nattu(プロフ) - もなかさん» もなかさん初めまして!コメントありがとうございます!安室さんのことが好きな方に楽しんでいただけてとても嬉しいです;;ありがとうございます! (8月15日 0時) (レス) id: 37a11942bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2023年8月1日 23時