○ ページ5
「悪いな、俺の部屋しか使えなくて」
「ううん。むしろ、使わせてくれてありがとう。一郎太となら、緊張しないし」
「気遣わずに、本当何言ってくれても良いからな」
一郎太はノートを広げながらそう言って笑う。私が頷いて見せると、満足げな顔をしてノートに視線を戻した。
髪を下ろした一郎太は、いつもよりずっと大人びて見える。顔にかかった前髪の間から、ノートに文字を書き込んでいく彼の真剣な目が見えた。
何だろう。普段家に居たときよりも、ずっと安心して…すごく心地良い。
私は一郎太の手の動きを見つめながら、机の上に突っ伏す。そんな私の手には、お気に入りのカバーに包まれたスマホが握られていた。
一郎太が誕生日にくれた、大事なカバー。
「…一郎太」
「ん？」
「…助けてくれて、ありがとう」
「…どうしたんだ、急に」
一郎太は私の方を見て、静かな声で言った。シャーペンを置いて、私と同じように机に体を預けると、少し視線を落とす。
「…基山が言ってくれなかったら、また助けられないところだった」
「また、って…」
「…あの日俺がもっと早く気付いたら、Aは傷付かなかった」
一郎太の声は、泣いているみたいだった。その手が伸びてきて、私の頭を撫でる。
一郎太の手って、こんなに大きくて温かかったっけ…。
「…ごめんな」
「…ううん。一郎太が居たから、私はここに居るんだよ」
「A…」
「一郎太があの時来てくれなかったら…私、どうなってたか」
お父さんは、私をどこまで傷付けるつもりだったんだろう。もしそうなっていたら、私は今のように笑って生きていられるだろうか。
「痛かったし、怖かったけど…一郎太がこなかったらもっと…」
「ごめん、やめよう。Aに嫌なこと思い出させたな…悪い」
わしゃわしゃと一郎太が私の頭を撫でる。彼の顔が歪んで、涙が、止めどなく溢れた。頬を伝って顎に流れて、机を濡らす。涙の理由は、自分でも分からなかった。
お父さんは、確かに越えてはいけない線を越えた。周りから見れば、お父さんは最低な人間だ。
でも、それでも。お父さんは正真正銘私のお父さんで、私は正真正銘お父さんが大好きだったから。
ﾋﾟﾛﾘﾝﾋﾟﾛﾘﾝ♪
「…！」
「電話か？」
スマホの画面に目を向ける。そこには、
＿＿基山ヒロト＿＿
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 24人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
狩間篤花(プロフ) - リベリさん» コメントありがとうございます！お久しぶりですー(°▽°)二人の関係、楽しんで書かせてもらっています！四章の方で頑張っておりますので、そちらもよろしくお願いいたします(о´∀`о) (2018年1月4日 22時) (
レス) id: 9ce959db1f (このIDを非表示/違反報告)
リベリ - お久しぶりです!!本当にいつ見ても感動します!!風介...二人の為に...優しいですね!!どんどんいい方向に進んでいますし、二人が進展する事を願っています!!頑張って下さい!!^ω^/ (2017年10月29日 2時) (レス) id: cb7b132aff (このIDを非表示/違反報告)
狩間篤花(プロフ) - リベリさん» 心配をお掛けして申し訳ございません…！出来るだけ更新できるよう、最善を尽くして参ります(о´∀`о) (2017年9月5日 23時) (レス) id: 9ce959db1f (このIDを非表示/違反報告)
リベリ - 狩間篤花さん» わぁ...！本当ですか！？嬉しいです！！更新なさっていなかったので、心配しました...！これからも更新頑張って下さい！！ (2017年9月2日 17時) (レス) id: cb7b132aff (このIDを非表示/違反報告)
狩間篤花(プロフ) - リベリさん» これから大会編の方も更新していきますので、よろしくお願いいたします(о´∀`о) (2017年9月1日 22時) (レス) id: 9ce959db1f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：狩間篤花 | 作成日時：2017年6月27日 16時
