○ ページ30
「基山君っ…！！」
考えるより先に漏れた悲鳴に近い声。永世第二の勝利を祝うアナウンスが流れる前に、彼はフィールドから消えた。
息苦しいほどに心臓が激しく動く。どうしたら良いか分からない、混乱した頭で私は立ち上がった。
「ど、どうしようっ…基山君、大丈夫かな…？」
「落ち着け、A。…病院に行く前に、救護室に運ばれるはずだ。そこに向かおう」
一郎太はそう言って席を立つ。私が頷くよりも先に、彼は私の手を引いて観客席を出ていった。
騒然とした会場を離れると、少しだけ胸の鼓動が軽くなる。一郎太の手をギュッと握り返して、私は彼の後ろを歩いた。
「…きっと大丈夫だ」
私に言っているのか、それとも一郎太自身に言い聞かせているのか。そんな声色で、一郎太は私の方を振り向く。
「…基山君、テスト勉強必死にしていたから…ちゃんと休めてなかったんだ…」
「いつもなら、ちゃんと自分の体調管理を出来てたはずだ。基山は、勉強もサッカーもきっちり両立してることで有名だし」
「いつも以上に、力を入れてたの…」
全教科、学年一位。そんな快挙を上げるには、寝る時間も惜しかっただろう。実際、テスト期間中の顔色は、それほど良くなさそうだったし。
「私、側に居たのに…何も出来なかった…」
「んなことないだろ？一緒に勉強だってしてたし、あいつにとってはきっと支えに…」
「でもっ…基山君、きっと無理してた…それに気付けないなんて…」
基山君は、他の誰かじゃなくて私を選んでくれた。隣に居させてくれた。なのに…情けない。
私が少しでも声をかけたら、基山君は耳を傾けてくれていたかもしれない。自分を追い詰めるようなこと、しなかったかもしれない。
「今はそんなこと考えたって仕方ない。それにあいつ、三点取って試合に勝ったんだ、良かったじゃないか」
一郎太は足を進めながらそう笑う。そうだ、基山君は決勝に進んだんだ。そんな後悔するよりも、まずはちゃんと、おめでとうって…言わなきゃいけない。
「そう、だね…」
私がそうやって、顔を上げた先に。
「貴方が、神月A？」
「え…」
彼女は、立っていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 24人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
狩間篤花(プロフ) - リベリさん» コメントありがとうございます！お久しぶりですー(°▽°)二人の関係、楽しんで書かせてもらっています！四章の方で頑張っておりますので、そちらもよろしくお願いいたします(о´∀`о) (2018年1月4日 22時) (
レス) id: 9ce959db1f (このIDを非表示/違反報告)
リベリ - お久しぶりです!!本当にいつ見ても感動します!!風介...二人の為に...優しいですね!!どんどんいい方向に進んでいますし、二人が進展する事を願っています!!頑張って下さい!!^ω^/ (2017年10月29日 2時) (レス) id: cb7b132aff (このIDを非表示/違反報告)
狩間篤花(プロフ) - リベリさん» 心配をお掛けして申し訳ございません…！出来るだけ更新できるよう、最善を尽くして参ります(о´∀`о) (2017年9月5日 23時) (レス) id: 9ce959db1f (このIDを非表示/違反報告)
リベリ - 狩間篤花さん» わぁ...！本当ですか！？嬉しいです！！更新なさっていなかったので、心配しました...！これからも更新頑張って下さい！！ (2017年9月2日 17時) (レス) id: cb7b132aff (このIDを非表示/違反報告)
狩間篤花(プロフ) - リベリさん» これから大会編の方も更新していきますので、よろしくお願いいたします(о´∀`о) (2017年9月1日 22時) (レス) id: 9ce959db1f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：狩間篤花 | 作成日時：2017年6月27日 16時
