○ ページ42
「…」
濡れた髪から、ポタポタと滴が零れ落ちる。バスタオルを頭から被ったまま、窓の外を見ていた。
一郎太の部屋に、うっすらと明かりが灯っているのが見える。カーテンの向こうには、きっと一郎太が居て…助けを求めたら、手を差し伸べてくれるのかな。
…もう、こっちを見てさえくれないのかな。
「…あっ…」
そうぼんやりとしているうちに、焦りと緊張から手に汗が滲んで、握ったスマホが滑り落ちそうになる。
即座に受け止めたけど、だからと言って何もない。
この小さな機械の中に、沢山の人が居て、いつでも繋がることができる。でも、今私が助けを求められる人はきっと一人も…。
「…基山君」
不安の中に一つだけ、彼の名前が浮かんでくる。震える指先が、登録した彼の電話番号をタップしようと動くけど、私の何かがそれを拒んだ。
基山君を、巻き添えにしてもいいの？
私はもう救えない。汚れている。今更助けを求めて何になる？
窓に背を向けて、そのまましゃがみこむ。壁にもたれ掛かると、さっきまでそこにあった彼の笑顔が、私の頭を埋め尽くした。
「っ…基山君…」
気付けば零れ落ちる彼の名前を、何度繰り返そうと。温かい笑顔はない。
「…会いたいよっ…」
お父さんの部屋に足を踏み入れれば、その時点ですべてが始まってしまう。
お母さんはリビングで誰かと電話していて、二階に上がってくる様子はない。
もう一度スマホの画面に目を向ける。ボタンをタップすれば、彼の声が聞けるかもしれない。
聞きたい。話したい。この不安を今すぐにでも、基山君に打ち明けたい。
…でも。
「！」
階段に響く、足音。絶対にお母さんの物じゃない。聞いただけでわかる、せっかちな階段の上り方。
私は発信ボタンに触れた。
………
……
…
何度かのコール音。ドアが開くか開かないかじっと見つめながら、私は生暖かいスマホを耳にギュッと当てていた。
何度も何度も、基山君の名前を呼んだ。お願いって願った。
足音が、私の部屋の前を通りすぎて、すぐに戻ってくる。
「…っ…お願い…」
ｶﾞﾁｬ
「A」
『もしもし？』
「基山君っ…助けて…お願いっ…」
『…風丸君の部屋が見える窓。開けて、今すぐ』
言われるがまま、私は立ち上がり窓を開けた。
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狩間篤花(プロフ) - 夜見さん» コメントありがとうございます(^^)楽しんでいただけているみたいで、本当にうれしいです(°▽°)これからも頑張ります！ (2017年6月3日 18時) (
レス) id: 9ce959db1f (このIDを非表示/違反報告)
夜見(プロフ) - この作品とっても面白いです、何度も読んでます.....！更新頑張ってください！ (2017年5月30日 23時) (レス) id: 101aec839b (このIDを非表示/違反報告)
狩間篤花(プロフ) - 凪沙さん» コメントありがとうございます(^^)そんな風に言っていただけるなんて…！これからも面白いと思っていただけるような作品を作っていきたいと思います！(°▽°) (2017年5月30日 18時) (レス) id: 9ce959db1f (このIDを非表示/違反報告)
凪沙(プロフ) - ヒロトオチということで読んでみたのですが…とてつもなく面白かったです((こんな文才が欲しいという尊敬もあるし、ヒロトのちょっとした不器用さとかみんなのキャラとか表現の仕方とか…それにストーリーも面白くてつい、一気読みしてしまいました！ (2017年5月29日 20時) (レス) id: 38003636ff (このIDを非表示/違反報告)
舞優(プロフ) - 狩間篤花さん» はいっ！頑張ってくださいぃぃぃ！ (2017年5月10日 22時) (携帯から) (レス) id: 7761e1fb5e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：狩間篤花 | 作成日時：2017年5月4日 19時
