218◇812 ページ18
.
真っ暗な中をただ歩いていた。
本当に何も見えないし、何も聞こえない。
ただ怖くて。不安で。みんなに呼びかけるけど、誰も何も言ってくれなくて。溢れそうな涙を堪えながら絞り出すようにでたのは彼の名前だった。
｢ばかだなあ｣って抱き締められた背中。ふんわりと優しい声色に、心の底から安堵したからつい。
えいちゃん、確かめるようにもう一度呼んだ。
『全く、お前はすぐ泣くんだから』
｢だって、怖かった…｣
『うん。俺がいるからもう大丈夫だよ』
それは、魔法のような彼の口癖だった。何かに挫折しそうなとき、辛いとき、彼の前でぼろぼろと泣くといつもそう言って抱きしめてくれる。
｢……えいちゃん、ずっとこうやってて…｣
『なに急に(笑)』
｢いいから、｣
えいちゃんの照れくさそうな笑顔も、抱き締められている感覚も。_____よく知っているものだった。
＊
｢もうA、また寝落ちしてたの？｣
目を開いた先には、困ったような顔をしてるみっくんがいて。彼の目をじっとみたあと、ソファの下に座るそらとテレビに映るニュースで今が朝だと理解した。
｢………おはよ｣
｢おはよう。俺も座りたいから寄って｣
｢……ん。｣
みっくんの肩に寄りかかり、何も考えずにテレビを見る。最近そんな時間が増えたし、なにより頭が考えることを拒否しているようだった。
テレビの音しか聞こえないリビング。ふと、アバハウスってこんな寂しかったっけ、なんて。
……あれ？
なにが足りないんだっけ。何色だっけ。えいちゃんはどこ行っちゃったんだっけ。なんでいないんだっけ。えいちゃんって赤髪だっけ。
ぐるぐると駆け巡る疑問の答えが出た時、ふっと力が抜けてく感じがした。…夢の時は夢って分かってたのに。いつからこんな夢と現実の境界線がわからなくなったんだろう。
彼が恋しくて毎日のように動画とか画像を見返してるからかな。真似して髪を赤くしたからかな。えいちゃんの匂いと煙草の匂いが染み付いたスウェットを着てるからかな。
……考えると目頭が熱くなってきた気がして。
｢A？｣
｢……もうちょっと寝る｣
ふらふらと向かった先は、えいちゃんの部屋だった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 447人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「紅一点」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
aykyz(プロフ) - めっちゃ好きです (2019年4月18日 14時) (
レス) id: 3afe2d2f7a (このIDを非表示/違反報告)
かたつむり(プロフ) - このお話めちゃめちゃ大好きで定期的に読み返しちゃいます笑 これからも楽しみにしてます！ (2019年3月13日 8時) (レス) id: 488a978ab9 (このIDを非表示/違反報告)
もに(プロフ) - むぎちゃさん» あのお話はえいちゃんの49日に合わせて書かせて頂いたので、ある意味これからのお話には関係ございません。ですので今まで通り彼を含めた5人で書かせていただきたいと思っております！ (2019年2月19日 8時) (レス) id: 33f99b4333 (このIDを非表示/違反報告)
もに(プロフ) - モアさん» こちらこそ読んでいただき感謝しかございません。ありがとうございます！ (2019年2月19日 8時) (レス) id: 33f99b4333 (このIDを非表示/違反報告)
むぎちゃ(プロフ) - これからえいちゃんは出てこないことになりますか？ (2019年2月19日 7時) (レス) id: ff325b6cef (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もに | 作成日時：2019年2月12日 11時
