short stories

眠り姫 (15) ページ31

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それから、しばらく平穏な日々が続いた。
伊野尾がコールドスリープで眠り、薮が宇宙へ旅立ってしまえば、高木のやることは仕事しかなくなってしまう。その日も大学からまっすぐ自宅のある地域へ帰ってきた。この地区では土地を有効活用するために一般住宅は全て高層ビルに集合住宅として造られている。移動車は大学差し回しの自走式で、高木を高層ビルの入り口まで送り届けると自ら地下駐車場へ戻っていく。
高速エレベーターに乗った高木は、急にエレベーター内に響き渡った通信予告音に身体を震わせた。お手伝いアンドロイドはマスターが建物内に入ると充電ユニットから出る仕組みになっている。緊急を要する連絡があれば1分1秒でも早く伝えるのが務めであり、他者がいない場合はエレベーター内でも連絡が出来た。
『いきなりで申し訳ありません、プロフェッサー』
自宅にいるお手伝いアンドロイドの声だった。声も伊野尾の声を模してある。あたりの柔らかい、穏やかな声音だ。
「どうした？」
『シャトル管制室から緊急連絡が入っています』
「管制室から？つなげるのか」
『いえ、部屋にしかつなげないそうです。急いでいるようです』
「わかった」
高木はチンという小さな音と共に、滑るように開くエレベーターのドアを開ききらないうちにもどかしげに身体を横にして通り抜け自室へ走った。高木がその前に立つと同時にドアが開く。高木は待ち構えていたお手伝いアンドロイドに鞄を投げて渡し、既に通信スタンバイ状態になった部屋のモニターの前に立つ。
「つないでくれ」
お手伝いアンドロイドは待機状態になっていたテレビ電話を通話状態にした。画面は余程親しい間柄ではない限り出さないようにしているから、向こうには高木の姿は見えないはずだ。こちらには慌てたようすの管制官の姿が映し出される。
『プロフェッサー・高木…！』
「一体、何がどうしたっていうんだ？」
『プロフェッサー、第２次アルファケンタウリ探検隊のシャトルが…』
「シャトルが？」
『連絡を断ちました』
「なんだって？」
『現在、原因を調査中です』
「今、そちらへ行く」
脱ぎかけたジャケットを着なおして、通信を切った。
「プロフェッサー…」
高木は心配げなようすを見せるお手伝いアンドロイドからカバンを受け取り、
「数日戻れないかもしれない。後を頼む」
と言って、部屋を飛び出していった。




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