眠り姫 (6) ページ22
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「そういうことじゃないんだよ、薮」
伊野尾は口の中だけで小さく呟いた。
脳細胞ではわかっているけれど、気持ちの部分で納得出来ない。マザーコンピューターが人の恋愛感情をデータとして解析は出来ても決して同調出来ないように、大気圏から宇宙へ飛び出していく薮に伊野尾の気持ちはわからない。
「…薮」
伊野尾はゆっくりと顔を上げて、そして少し辛そうな薮の表情を見て、柔らかく微笑んだ。この場でそれを言っても始まらない。こんなやり取りを今まで数え切れないほどしてきた。
「伊野尾」
「…無事に、帰ってきて」
負担にならないように、なるべく穏やかな口調で、それだけを言葉にした。
「ああ、もちろんだ。ちゃんと帰ってくるからお前は待っていてくれ。コールドスリープセンターに手続きはしてあるんだろう？」
「うん。今抱えている仕事を片付けたらだから、眠るのは何週間か後になるけど」
「そうか。根を詰めるなよ」
「それは薮も一緒」
薮は苦笑しながら頷いた。
「今度行くのは太陽系の外だ」
「そんなところに何があるの？想像もつかないな」
「お前のよく知っているコンピューターの世界だって似たようなもんだろう…太陽系の外にだって宇宙は広がっているんだ。アルファケンタウリにはきっときれいな石があるんだろうなあ…おみやげに持って帰ってきてやるよ」
「勝手に持ってきちゃいけないんでしょ」
「黙ってりゃわかんないさ」
宇宙へ出発する前の薮は、いつも精神的に高揚したようすを見せる。もちろん、そうでなければスペースシャトルパイロットなど務まらない。
いつもどおりスペースポートへは見送りに行かない、と伊野尾は言った。
「じゃ、行ってくる」
「…いってらっしゃい」
何度となく繰り返してきた別れの朝だった。
薮はすぐ戻ると言って出かけていき、伊野尾は少しだけ拗ねたようすで見送る。それはいつもの別れのはずで、心地よい眠りに付けばすぐに再会できる、そういう別れだった。
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ひなた(プロフ) - はじめまして。コメントお邪魔します。お話がそろそろ終わりに近づいてきたようで早く結末が読みたい反面、まだずっと読んでいたい、そんな葛藤と戦ってます。すてきなやぶいのありがとうございます。これからも楽しみにしています！ (2017年5月6日 0時) (
レス) id: 85d71dbfbe (このIDを非表示/違反報告)
浩鈴(プロフ) - Kさん» こんにちは！コメントありがとうございます(*^^*) GW中はコンスタントに更新出来ると思いますのでよろしくおねがいします。 (2017年5月2日 11時) (レス) id: 7e4fbd94f2 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 以前一度コメントを残した者です＾＾更新分を仕事の前に読んでしまって、引き込まれすぎて「あぁ、、どうしよう( ; _ ; )」という気持ちになってしまいました笑 続きも楽しみに待っています＾＾ (2017年5月2日 10時) (レス) id: f654da7d4d (このIDを非表示/違反報告)
浩鈴(プロフ) - ゆうみさん» はじめまして！ありがとうございます。 コメント励みになります(*^^*) 半分は越えた…かな？まだまだ続きますのでよろしくお願いします！ (2017年4月30日 14時) (レス) id: 7e4fbd94f2 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうみ - 物語に引き込まれるようにどんどん読み進められます。とても面白いです！更新頑張ってください！ (2017年4月30日 14時) (レス) id: c3179f3c1c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：浩鈴 | 作成日時：2017年4月13日 0時
