short stories

眠り姫 (5) ページ21

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薮は男にしては華奢な伊野尾の身体を、今度はすっぽりとその大きな胸の中へ抱き入れる。
「コールドスリープしていれば、あっという間だ。そのおかげで俺はウラシマタロウにならなくて済む」
伊野尾は薮の胸の中で小さく頷く。
「それとも、お前はシャトルパイロットの俺のパートナーであることがイヤなのか？」
「そんなこと…あるわけない」
薮は薄く微笑み、頷いた。
「スペースシャトルパイロットのパートナーになることがどんなに大変か、マザーは呆れるくらいにしつこくお前に説明していたな？相性は最高に良いが、俺がシャトルパイロットだから俺とお前がパートナーになる許可を与えるのをマザーはえらく迷っていた。ただ、相性が申し分ないだけにマザーには反対する理由がない。コールドスリープを繰り返すことがお前にどんなに不利なのか、そこを強調するしかマザーには出来なかった…でも、お前は俺と一緒に生きることを選んだんだろう？」
薮と時間の流れを一緒にするためにコールドスリープを繰り返せば、伊野尾がシステムエンジニアとして仕事をするのは多くて１０年に１度ほどになる。
それでも伊野尾がマザーコンピューターの発展に大きな影響を及ぼすはずなのだが、マザーコンピューターは単純に伊野尾が長期間眠ることで精神的悪影響を受けないか心配していた。事実、これまでスペースシャトルパイロットのパートナーとしてコールドスリープを繰り返してきた人間が精神的に破綻していく例をマザーコンピューターは幾つもデータとして持っていた。それは確率としては非常に低く、伊野尾がそうなる可能性はもちろん低かったのだが、その可能性は幾ら計算し直してもゼロにはならなかったからだ。
マザーコンピューターは真っ向から反対はしなかったが、何度かよく考えろと伊野尾に忠告していた。伊野尾もマザーコンピューターの言いたいことはよくわかっていたが、その意思は変わらなかった。





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