3210.【2】 ページ10
［先輩side］
翔くんは
自分に厳しくて他人に優しい。
だから患者さんからも好かれる。
『翔先生でよかった』と言って退院していく人達が
大勢いるんだ。
誰にでも平等に優しくて、誠実で丁寧な対応。
患者さんと関わる時は医者の顔。
私情を持ち込むことは一切ないし、勘違いさせる
ような言動や行動は絶対にしない。
それは俺が保証する。
それなのに…
翔「今回は俺が悪かったので…」
「いや、そんなはずないだろ…」
翔「もういいんです…」
ストーカー行為の相談を受けてから、日に日に
憔悴していく翔くんが心配で声を掛けた。
そしたら「もう解決したから…」と。
警察沙汰になってしまって、気にしているのだろう…
翔くんが責任を感じることじゃないし、翔くんが
心に傷を負うことじゃない。
責任は相手にあるし、翔くんは被害者。
それなのに、自分に厳し過ぎて、他人には
優しすぎる翔くんだから…
『俺が悪かったんです…』
これが口癖みたいになってしまった。
元気がないな…と思って声を掛けると、すぐに
この言葉が返ってくるようになった。
その言葉を、俺が否定したって何も変わらない。
むしろ翔くんは追い詰められていくように感じる…
［翔にぃside］
『悪いのは俺だった…』
『相手を傷付けてしまった…』
そう思うと苦しくて、苦しくて…
自分を否定する気持ちがどんどん大きくなる。
辛くて苦しくて、胸のあたりがギューっと痛くて
堪えきれなくなって…
「…っ、いっ…」
もう無理…って思った時に、引き出しからカッターを
取り出して、スーッと手首に当ててみた。
痛い…
でも、心の苦しさに比べたらこれくらい…
それに…
『お詫びしなきゃ…』
傷付けた相手と、迷惑を掛けた人達のことを思えば
これくらいなんともない。
今は先輩にも心配を掛けてしまっているし…
『こんな自分が嫌い…消えていなくなりたい…』
苦しくなる度に手首を傷付ける。
職場ではリストバンドの上から白衣を着て隠して
家に帰ってからは長袖の服を着て隠した。
智にぃが「翔…？職場でなにかあった？」って
心配してくれるようになって…
「ごめんね、少しゴタゴタして。でももう解決
したから大丈夫」
智「そっか。なんかあったら言ってね」
「ん、ありがとう」
誤魔化して逃げた。
『解決した』は本当のこと。
そう、解決したんだ。
それなのに俺はなにを…
そう思うと益々自分のことが嫌いになって…
自傷行為をやめられない。
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作者名：空
| 作成日時：2020年3月16日 21時
