3109.【4】 ページ9
［智にぃside］
先生が言ってたんだ。
「そろそろ焦りと不安を感じ始める頃じゃないか」
って。
見事に当たってる。
翔は俯いたまま、俺の言葉に短く返答するだけ。
息苦しさと動悸は1ヶ月以上も続いているんだから
翔自身、入院が必要だと分かっているはずなんだ。
必ず治るってことも含めてね。
でも、入院が長引くことで、かなりのストレスを
感じてるのも事実。
「今は？…苦しくない？」
翔「…ん」
「じゃあ、少し気分転換しにいこうか。お散歩」
翔「え？…いい、の？」
「んふふ…いいの。笑」
車椅子に座らせて、酸素はつけたまま。
上着を羽織らせて、ブランケットも忘れずに。
「いこっかね」
翔「ん、ありがと…」
外の空気を吸わせてあげるのは、良い気分転換に
なるよって先生が教えてくれたから。
中庭をグルグルっと車椅子で散歩してから、ベンチに
座って休憩。
翔「気持ちいい…春の匂い…」
「そうだね、ポカポカするねぇ」
風はまだ冷たいけど、日差しと小鳥の鳴き声で
春を感じる。
新緑の匂いも春って感じ。
しばらくは、たわい無い話をしてたんだけど…
翔「みんなに迷惑掛けてさ…情けない、な…って」
「そんなことないよ」
ポツリと呟いた翔の目が、途端に潤む。
翔「こんなに…長引くなんて、さ…」
「でも、必ず治るから。ね？」
翔「…ん」
気の利いたことなんて言ってやれなくて、車椅子を
少し引き寄せてそっと肩を抱く。
翔「…ん、…っ、んっ…」
「…大丈夫」
翔「…っ、んっ…」
しゃっくり上げ始めてしまったから、酸素が足りなく
なってきたんだろう…
指先に付けた器械がピコン…ピコン…と小さな音を
発してそれを知らせる。
「一旦戻ろうね」
翔「…っ、…ん、…っ…」
車椅子を押して病室に戻っている途中、翔が「これ
いらない、もん…」って呟きながら、指先から器械を
外してた。
誰かさんみた〜い。笑
放ったりせずに手で握っている辺りは、さすが
医療関係者。笑
高価なものだって知ってるもんね。
先「おかえりー、呼吸苦しくなっちゃった？」
翔「…平気、です…」
先「そっか、そっか」
器械が異常を知らせると、先生にもお知らせが
いく仕組みになっているから、病室に先にきていて
くれたみたい。
先生は涙の痕が残る頬にも、器械を外してしまって
いることにも触れずに、翔をベッドに寝かせるのを
手伝ってくれた。
そのお陰で翔は、無駄な抵抗をすることなく
大人しくしてくれた。笑
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作者名：空
| 作成日時：2019年3月25日 20時
