2919.【4】 ページ19
［潤side］
和「…ん、んん…」
「…痛い？」
和「…ん、ん、ここ…」
「ん、ここな…」
胸に手を当てて泣いている和。
しゃっくり上げながら「しょ…にぃは？」って。
注射して欲しいから、こうしてよく翔にぃを求める。
「今ね、仕事いってるから…もう少し待って？」
和「…っ、んくっ…ん」
「仕事」って言うと、諦めてくれる時間が長いから
使わせてもらう時もある。
今はほんとに仕事なんだけどね。
和「…っ、んっ…んくっ…」
「もう帰ってくるよ」
何度か泣いてしまったけど、午前中の間は待つことが
できた。
翔にぃが「ただいま」って何度も頭を撫でて
あげてる。
呼吸の合間に聞こえてくるのは「…注射して？」
って、和の哀願する声。
翔「今は使えない。強い薬だから、すぐまた苦しく
なっちゃうから。な？」
和「…っ、それで、いい、…ら」
翔「和がよくても体に良くないから」
和「…っ、んっ…やだ、やって、ほし…」
少し体力が余ってたのか「やって」って繰り返して
泣き声がいつもより大きくなった。
すぐに智にぃが駆け付ける。
和室の入り口に座って見ていた俺の頭をポンポンと
撫でて柔らかい笑顔を向けてくれてからね。
それだけで、いっぱいいっぱい安心できるんだ…
智「…かーず？」
和「…っ、んっ…んくっ…や…も、ん」
翔にぃが胸元に置いている手を払いながら
泣いている和。
智にぃは、その手を優しく包み込んで説得を
始める。
智「かーず…？昨日の夜、すごく苦しくなった
でしょ…？」
和「…っ、んっ…んくっ…やだ、も…」
智「覚えてるでしょ？やっぱりね、注射はあんまり
良くないんだって。ね？」
和「…っ、いい、んだも、ん」
強すぎる薬だから、確かに直後は少し体調が
良くなる。
でも、そのせいで数時間後には倍くらいに苦しめ
られる。
昨日使ってみたけど、やっぱり駄目だったんだ…
和「…っ、ん…やって、欲し…」
智「ん、分かってる。それくらい苦しくて辛いん
だもんね…」
和「…っ、んっ…んくっ…」
昨日、智にぃが言ったんだ。
『今、和の為にできるのは注射することじゃない。
この気持ちと苦しさを分かってやって寄り添って
あげることなんじゃないか』って。
確かにそう。
大嫌いで恐くて堪らないはずの注射を、自分から
頼んでくるなんて、どんなに苦しいんだろう…って
思うから。
「かず…」
和「…っ、んっ、ん…んん…」
そっと頭を撫でたら、手をギュッと握ってきた…
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作者名：空
| 作成日時：2018年7月3日 19時
