2317.【翔にぃの嘔吐恐怖症】 ページ17
［翔にぃside］
お昼休みになって、
ホッと一息。
屋上のベンチに座って、コーヒーを飲みながら
パンをかじる。
先「翔くん、お疲れ。隣いい？」
「あ、はい。もちろん」
にこやかに微笑む先輩だけど、目の奥が笑っては
いない。
「何か隠してんだろ？」って声が聞こえてきそう…
ここのところ、食欲がガタ落ち。
原因は分かってるんだ…
だけど、まさか自分が嘔吐恐怖症になるなんて
信じたくないから。
「ちょっと遅い夏バテ」ってことで、今まで
誤魔化してきたんだ。
だけど、素人ではないこの人のことは
誤魔化せない…
先「どこ調子悪い？」
ほら、やっぱり…
俺はパンを一口かじりながら「どこも悪くない
です」ってボソボソ。
こういう時さ、上手く誤魔化せたらいいんだけど
目を合わせることすらできなくて…
先「翔くんてさ…」
先輩の低めの声と、見つめられてることに
ドキッと…
先「嘘つくのほんとヘタだよな…」
頭を軽く小突かれて「隠し通せるわけないんだから
早めに白状しろ」って叱られる。
チラッと横を見たら、怖い目をしながらも
眉毛を下げて困った顔して笑う先輩がいて…
『お兄ちゃんみたいだ…』
そんな風に思う自分がいる。
先輩には確か、妹がいたんだったかな。
結婚して子どもが生まれたって嬉しそうに
話していたこともあったな…
呑気にそんなことを思い出していたら、サッと
伸びてきた先輩の手。
首に当てられそうになって咄嗟に体を引いたけど
伸びてきた反対の腕で、それを制される。
俺の動き、完全に読まれていて…悔しい。
先「熱はないな。脈も正常だし」
いつの間にか脈まで計られて。
「ほんとにどこも悪くないんで…」ってもう一度。
そしたら「夏バテでそんな痩せるか？」って。
「えっ…？」
まさか先輩が俺の不調の原因を夏バテだと
思っているはずはない…
そう思うと思考が付いていかずフリーズして
しまった…
先「はは！分かりやすいな、お前は。
智くんからLINEきたんだよ」
あ…そういうことか。
先輩によると智にぃからLINEがきたのは
昨日の夜。
『夏バテって、長引くものですか？』
『職場で何か変わったことありませんか？
翔、痩せましたよね…？』
こんな内容だったらしい。
先「智くんも心配してるから…な？」
「…はい」
先「…どうした？どこ調子悪い…？」
「…」
俯いたまま膝の上で両手を握り締めたら
先輩の大きな手が背中に触れた。
話してしまおうか…
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作者名：空
| 作成日時：2016年9月4日 17時
