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［翔にぃside］
外来を抜けせてもらって
和の到着を待つ。
少しでいいから意識があって欲しい…
「翔にぃ」って呼んで欲しい…
そう願わずにはいられなくて。
準備された挿管具を見たくなくて
少し遠くに押し出してみた…
看「翔先生、和くん到着です。」
その言葉と同時に運びこまれる和。
智「翔！救急車乗ってからも、しばらく
意識あったんだけど…お願いします。」
智にぃは小さく頭を下げると、
不安そうに瞳を揺らしている雅紀の肩を
強く抱いてくれた。
和はストレッチャーに寝せられて、
苦しくてもがいたんだろう。
体がしっかりと拘束されていて
見るのが辛い…
処置室への移動中に看護師が、拘束具を
外して、涙の痕を拭ってくれる。
優しく触れてくれる看護師に頭が下がる…
処置室のベッドに移しても
和が目を開けることはない…
苦しそうにもがいている姿を
何度も見ているから、この方がラクなんだ…と
自分に言い聞かせて何とか気持ちを
落ち着ける。
使いたくなかった挿管具を手に持ち
和を助けるためなんだ…って
納得しようとする自分…
「苦しい」「助けて…？」って訴えていた
和の姿が頭に浮かんできては消えていく…
何だか遠くにいってしまう気がして
俺は慌てて挿管具を握り直した。
弱ってきた自発呼吸…
このまま待っていても、挿管なしでの回復は
見込みがない。
分かっているけれど…
また和に苦しい思いを
させなきゃいけないのかと思うと、
どうしても一歩が踏み出せなくて…
何度も背中を押してくれた先輩も今はいない。
ふと「翔にぃ！」って呼んで、
ニコッと笑う和の顔が頭に浮かんだ。
こいつを守ってやりたくて担当医になった…
いつまでも自分で決断できないままじゃ
和が可哀想だ…
「挿管します。」
やっとのことで絞り出せた一言。
看護師はニコッと笑って
すぐに準備を始めてくれた。
俺より長く和のことを担当してくれている
看護師さん。
和がどんなに手の掛かる時でも「可愛い」って
お世話してくれた。
俺は看護師のサポートを受けながら、
抜管した時に、なるべく苦痛がないよう
喉を傷付けない様に気を付けて挿管した。
だんだんと安定する和の呼吸。
苦しそうだった顔が寝顔へと変わっていく…
下がりきってしまって冷たくなった体を
そっとさすりながら、処置を続けていく。
落ち着いたタイミングで…
「頑張ってくれて、ありがとな…」
そう呟いて小さな体をギュッと抱き寄せた。
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作者名：空
| 作成日時：2013年6月20日 18時
