９ ページ9
「あ、そういえば」
「なに？」
あることを思い出して声を上げる。
「ムーンローズって何…？」
「ムーンローズ？」
俺の問いを壮真が問い返す。
「ああ、それね。ギークに、というかカデンツァに私そう呼ばれてるの。個体識別番号みたいなものなんじゃない？」
「個体識別番号…」
堅苦しい物言いをそのまま反芻する。
「いや〜カッコイイな…悪の組織と戦って、ヒーローみたいな名前もあって、あ、そういえば変身って変身もしてたよね？」
壮真がワクワクした様子で尋ねる。
「戦闘コスチュームに着替える時にね。別に言わなくても変身できるんだけど、その…なんていうか…言った方がかっこいいかな〜って…」
ちょっと照れくさそうにそう彼女が言う。
なんだか幼い子どもみたいでかわいいと思ってしまった。
「でもマジもんのヒーローなんだな、なんか信じられねぇ」
「僕もです。テレビの中の話みたい」
「まぁ目で見ても普通信じ難いよね、仕方ない仕方ない」
俺とそう年の変わらない、というか俺より年下の女の子が本当に戦っているなんて信じ難い話だが、この目で見たものに嘘偽りはない。
「なぁ、その、危険な目にあったりしねぇの？」
少し気になったことを聞いてみる。
彼女は、うーんと唸ると一呼吸置いて口を開いた。
「あるよ。そりゃ無傷のヒーローなんていないでしょ」
「え、危なくないの…？大丈夫…？」
「心配してくれてありがと。でも、これが私の使命だから大丈夫」
心配する壮真に、真っ直ぐな瞳でそう言い切る彼女は、普段の姿のままでも正しくヒーローで、とても力強く映った。
「あとは？他に聞きたいことある？」
彼女がそう問いかける。
正直、カデンツァやリライズについてもう少し聞いてみたかったが、興味本位で聞いてはいけないようなことの気がして黙っていた。
「僕は特にないです。秀樹さんは？」
「俺もない」
「そっか、じゃあそろそろお開きかな。わざわざ試合の後に来てくれてありがとうね」
「いいよ別に、俺だってその、知りたいこと山ほどあったし」
俺がそう言うと、彼女がじっとこちらを見つめる。
「な、なに？」
「長岡くんって、素っ気ないけど優しいよね」
「！？」
いきなり褒められて言葉に詰まる。
「気づいちゃいました？そこが秀樹さんの魅力です」
なぜか壮真が得意げに言うと、彼女が楽しそうに笑った。
彼女のその笑顔を少しでも長く見ていたいと思うのはなぜだろうか。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 34人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：麗華 | 作成日時：2024年2月14日 4時
