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「昨日の子だよね…？バケモノと戦ってた…」
俺が小声で耳打ちすると、彼女がびくりと反応する。
そして目を見開いて、俺の方を見ると、小声でこう言った。
「お兄さん、まさか覚えて…？」
「…？」
「ちょっと来て」
すると、彼女が俺の手を取り、引っ張っていく。
着いたのはコブシ球場の裏手だった。
「お兄さん、昨日ここで何があったか知ってるの？」
「知ってるも何も、この目で見たし…」
「…！そう、覚えてるんだ…」
「…？」
「う〜〜〜〜〜ん…どうしたものか…」
俺が不思議そうにしていると、彼女が困ったような表情をして声を上げた。
「あのね、昨日のことはね、みんなの記憶から消したはずなの。だから、無かったことになってるはずなの」
「え…」
「だけど、何らかの理由により、お兄さんは覚えてる」
記憶から消した…？そんなことが可能なのか？
大勢の記憶を…？
しかし、会う人会う人みんな昨日はオフだったと口を揃えているのを見るに、彼女が嘘を言っているとも思えなかった。
「ねぇ、周りに他に覚えてる人はいる？」
「えっと…とりあえずひとりだけ」
「合わせて2人か…なるほど」
彼女が腕を組みながら考え込む。
しばらくそうしていると、考えが纏まったのか、鞄から紙とペンを取り出し何かを書き始めた。
「お兄さん、昨日何があったのか知りたがってたよね。教えてあげる。その人と一緒に今日この場所に来れる？」
そう言って彼女が俺に手渡した紙には、寮から程遠くない公園の住所が書かれていた。
「わかった。そいつとここに行けばいいんだな？時間は？」
「何時でもいいよ。待ってるから。今日も試合なんでしょ？」
「まぁ…じゃあなるべく遅くならないようにする。ちゃんと行くから全部説明して」
彼女の目を見てそう告げると、真っ直ぐな瞳の彼女と目が合った。
彼女はこくりと頷くと、踵を返してその場を後にする。
昨日は一瞬で闇夜に消えた背中が今はゆっくりと遠ざかっていく。
俺はその背中をいつまでも見つめていた。
・
・
・
今日の試合は無事何事もなく俺たちの勝利で終わり、早々と球場を後にする。
壮真には少し前のタイミングで話をしていたので、壮真と同じ車に乗って早速公園に向かう。
公園に着くと、「待ってる」との言葉通り、昼間見た背中がそこにはあった。
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作者名：麗華 | 作成日時：2024年2月14日 4時
