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「秀樹…さん？」
彼女が少し照れくさそうに俺の名前を呼ぶ。
「おう、それでいい」
「わかった、じゃあまたあとで」
手を振って彼女と別れる。
俺は楽しそうに仕事に向かう彼女の背中を見送った。
・
・
・
また、別の日、コブシ球場に向かうと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
A…？
「何しに来たの…。……。」
なんだか誰かと言い争ってるように聞こえる。
恐る恐る声のする方を覗くと、Aとこの間の男、ギーク…だったかが話をしていた。
カデンツァ…何しに来たんだ…？
「やだなぁそんな怖い顔しないで。君のかわいい顔が台無し」
「うるさい。何しに来たのかって聞いてるの」
「僕が野球を見に来ちゃダメなのかい？」
「騙されないわよ、他に目的があるんでしょう」
「バレたか…君に会いに来たんだ」
前も思ったけど、こいつ、癪に障るキザなやつだな…
二人の会話を盗み見ながらそんなことを思う。
｢はぁ…言う気がないならもういい。私は貴方が嫌いなの。用がないならさっさと失せて｣
｢冷たいなぁ…僕はこんなに君のことが好きなのに｣
そう言いながらギークが彼女のを手を取る。
そしてそのまま、恭しく彼女の手の甲に口付けをした。
…！！
アイツっ…！
気づくと俺は二人の間に割って入り、その手を振り払っていた。
｢なんだい、君｣
ギークが少し声を低くして俺の方を見る。
｢こいつ、嫌がってるだろ｣
｢秀樹さん…｣
彼女が心配そうに俺を見つめる。
｢なに、君。僕と彼女の邪魔がしたいの？｣
｢いやだから嫌がってるだろって…｣
そう言うと、きゅっと彼女が練習着の裾を掴む
彼女の方を振り返ると、ぶんぶんっと首を横に振った。
｢ギーク、彼は一般人だよ。一般人に手を出すのは反則って前も言わなかった？｣
｢君まで彼との関係をはぐらかすんだ、寂しいよ｣
そうギークが不敵に笑いながら言う。
本当に鼻につくやつだな。
｢まぁいいさ、君に会いに来たのは本当だから。元気そうで安心したよ。それじゃ｣
そう言ってギークが踵を返す。
そのまま煙とともに彼は消えてしまった。
｢その、大丈夫か？｣
｢うん、全然平気。いつもギークにからかわれてるんだよね｣
そう自嘲気味に笑いながら彼女が言う。
その言葉に彼女の手の甲にキスをするギークを思い返すが、ただからかっているだけのようには見えなかった。
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作者名：麗華 | 作成日時：2024年2月14日 4時
