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「なーがおかくんっ」
「うおっ、びっくりした…」

あれから数日、しばらくカデンツァも見ないし穏やかな日々が続いていた。

「おはよう朝早いね」
「試合前に自主練しときたいしな。お前も早いじゃん」

そう言うと、彼女は周りを見回して誰もいないことを確認するとちょいちょいと手招きした。

彼女の方に顔を寄せる。

「会社勤めって大変だよ…朝が早くて…」
「おいそんなこと耳打ちで言うなよ」

何を言われるのかと思っていたらただの愚痴だったのが面白くて思わず笑顔になる。

結構ユーモアのあるやつなんだな。

ヒーロー=自分とは違う存在と思っていたけれど、彼女も普通の人間なんだよなと納得する。


「あ、今日はYouTube用に後で撮影あるからよろしく」
「へーちゃんと仕事してんだな」
「失礼な!!するよ!!」

今度は頬をふくらませて怒る姿が可愛らしい。
コロコロ表情が変わって見ていて飽きない。

「な、仕事、楽し?」

ふと気になってAに問う。

「うん、すっごく楽しい」

満面の笑みでそう言う彼女に俺の方が嬉しくなった。


「カデンツァと戦う以外のことってしたことなかったからさ、働くってこんなに楽しいんだと思ってるとこ」
「ずーっと戦い1本だったわけ?」
「そうだよ、それしか知らない」

前彼女が言っていた言葉を思い出す。

『物心ついた時から両親がいなくて』
『友だちなんて必要ない』
『無傷のヒーローなんていないでしょ』

もしかするとこいつは、すごく狭くて寂しい、それでいて危険な世界しか知らないのかもしれない。

前に壮真が野球の楽しさとかを教えてあげたいと言っていたけれど、野球以外にもこの世の中には楽しいことが沢山あるんだということをAに知ってほしいと思った。

願わくば、彼女がもう戦わなくていい世界が訪れてほしい。

そう思うのは俺のワガママなのだろうか。


そんなことを考えながら彼女を見つめる。

視線の先には、今日のスケジュールを楽しそうに確認する彼女の姿があった。


「じゃあ私そろそろ行くね。長岡くんも、練習頑張って」

パシっ

行こうとする彼女を半ば衝動的に引き止める。

「え、なに…?」
「え、あー…名前、その秀樹でいいよ」

半ば衝動的に引き止めたので要件が出てこなかったが、"長岡くん"と呼ばれているのがもどかしかったので、そこを指摘する。
 
 
 
 
 

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作者名:麗華 | 作成日時:2024年2月14日 4時

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