１１ ページ11
「いやふつう、それは彼女の直属の上司の仕事じゃないんすか？」
哲人さんの隣にいた宗さんがそうツッコミを入れる。
ありがてぇ…それが正論だよ…
しかし、哲人さんは引き下がらない。
「でも年近いんやろ？球場の案内とか俺たち選手のこと教えたりはふたりでもできるやん」
「いやそうっすけど…」
「僕は別に構いませんよ」
「壮真！？」
壮真が予想外のことを言い出すので、驚いて壮真の方を見ると、くいくいと耳打ちのジェスチャーをするので壮真に顔を寄せる。
「彼女のことを知ってるのは球団で僕たちだけなんです。近くにいた方が何かと便利かもしれないでしょう？」
「なるほど…？」
確かにそれは一理ある。
できることならなにか彼女に協力してあげたいと思っていたのも事実だ。
「おーい内緒話は終わったかー？」
哲人さんが呼びかける。
「秀樹さんも教育係やるそうです」
「おっそうか！さすが秀樹、物分かりよくて助かるわぁ」
「やるんだ、教育係」
しげしげと宗さんが俺の方を見る。
なんか怪しまれてる…？
「まぁ、そういうわけでAちゃん、わからないことあったら秀樹か壮真に聞いてや。頼りになるでこいつら」
「わ、わかりました。何から何までありがとうございます」
そう言って彼女がお辞儀をする。
若干哲人さんに押されているようだった。
「じゃ、俺たちは行くわ、お二人さんAちゃんのことよろしゅーな」
「はーい」
「うっす」
そう言って、遠ざかる哲人さんと宗さんの背中を見送る。
その場に彼女と俺たち３人だけになると、ふーと彼女が息をついた。
「今のが山田哲人選手ね。なるほど陽気で優しい関西人って感じね」
うんうんと彼女が頷く。そして手帳にメモを取った。
「わざわざメモってんの？」
「さっき私が全部噓言ったと思ってるでしょ？」
「だって壮真もお前もしれっと初対面のふりするし…」
「あれはそうした方がいいと思ったから…でも野球について勉強中なのは本当」
「本当なんだ」
潜入捜査じみたことをしてるので、もうてっきりこちらの情報も万全なのかと思っていたがどうやらそうではないらしい。
「というわけでよろしく、せんぱいっ」
「お、おう」
先輩と呼ばれたのがもどかしくて曖昧な返事を返す。
楽しそうに笑う表情はちょっといたずらっぽくて、本当に後輩ができた気分だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 34人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：麗華 | 作成日時：2024年2月14日 4時
